本研究では、当研究室で開発した直鎖状の感温性吸着剤(ポリマー)をシリカ被覆磁性ナノ粒子に固定化することで、温度スウィングのみで重金属イオンを吸脱着でき、かつ重金属リサイクル後に磁性を使って迅速に分離回収可能な新規な感温性重金属吸着剤を開発することを目的としている。昨年度の研究では、電解酸化法によるシリカ被覆磁性ナノ粒子調製時のシリカ源濃度(50-500ppm)の影響の検討、及び、得られたシリカ被覆磁性ナノ粒子への感温性ポリマーの固定化を行った。その結果、シリカ被覆していないマグネタイトと比較して、シリカ被覆したマグネタイトでは、最大5倍のポリマー固定化量を得ることができた。 今年度はまず、感温性ポリマーを構成するN-isopropylacrylamide (NIPAM) (感温性部位)とacrylic acid (AA)(重金属吸着部位)の割合が、ポリマー固定化量及びCu(II)イオンの飽和吸着量へ与える影響を検討した。その結果、AA導入量が最も小さい 28mol%の時、固定化量、Cu(II)イオン飽和吸着量のいずれも最大となり、それぞれ0.489 g-copolymer/g-MNP、0.511 mol/g-MNPであることが分かった。またCu(II)、Co(II)、Mn(II)、Ni(II)の4種の金属イオンを用いた競合吸着実験を行った結果、Cu(II)を選択的に吸着することが分かった。また重金属イオンの吸脱着(リサイクル)は、10-50℃の温度スウィングのみで制御可能であり、脱着の際に通常用いられる酸などは必要ないことが分かった。繰り返し使用における吸脱着量の変化もほとんど見られなかった。更に、磁性粒子の誘導加熱特性を利用した重金属イオンの吸脱着制御を行ったところ、溶液全体の加熱を必要温度にまで上昇させる必要がないため、より短時間で同等の吸脱着制御が可能なことが示された。
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