研究課題/領域番号 |
18K11719
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研究機関 | 八戸工業高等専門学校 |
研究代表者 |
佐藤 久美子 八戸工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (10205908)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | テレケリックス / グラフト / トリアジンチオール / オキサゾリン / ポリ塩化ビニル / 銅板 / 表面改質 |
研究実績の概要 |
本研究は、地元に大量に存在する廃棄物のホタテ貝殻粉末等抗菌物質を、本研究室で開発したトリアジンチオールとポリ(2-アルキル-2-オキサゾリン)という二つの有機分子の複合効果が期待できるテレケリックスに添加・充填させた新規抗菌材料開発を目的とする。これにより、医療用高分子材料などへの応用を目指す。具体的には、テレケリックスを有機高分子体にグラフト型化学結合させ、これにホタテ貝殻粉末等抗菌物質を充填させた複合材料を合成する。以上のように本研究は、地元の廃棄物を未利用バイオマス資源として利活用することにより、地元の環境問題の解決につなげるとともに、新規の機能性材料とするものである。平成30年度には、次の実験・研究を行い、研究成果を得た。 A.トリアジンチオールを2種類準備した。1つは市販品であるが、もう1つは市販されていないため、文献に従い3段階で合成した。この2種類のトリアジンチオールを用いて、新規のテレケリックスを合成することができた。さらに、このテレケリックスを有機高分子体のひとつであるポリ塩化ビニル(PVC)にグラフト型化学結合させた新規材料の調製を行うことができた。 比較のためにモノオキサゾリンのテレケリックスをグラフトさせる実験を行ったが、予想外の結果となったが、重要な知見を得ることができた。 B.テレケリックスと金属との強親和力を利用することで、テレケリックスでの金属表面処理および接着剤としての利用を検討した。2種類のトリアジンチオールを用いて、溶液への浸漬法により銅板上にテレケリックスを合成することができ、この有機薄膜について分析し評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の具体的な目標として交付開始時に立てた8つの研究計画の内、1年目では2つの項目に着手したが、その内1つについては比較のために行ったモノオキサゾリンのテレケリックスをグラフトさせる実験で予想外の反応が起き、目標とするグラフト共重合体が合成できなかった。このため、グラフト共重合体に焼成ホタテ貝殻粉末等を充填した新規複合材料の調製まで行くことができなかった。しかし、文献に従い3段階で合成したトリアジンチオールについて、もう一方の市販品トリアジンチオールとは違う特性について知ることができ、また、それを用いるグラフト共重合反応についてのメカニズムについて重要な知見を得ることができたと考えている。このため、今後の研究についての指針が得られ、研究の広がりにつながる結果であった。研究全体としては大きな遅れであるとは考えていない。この研究成果は、すでに学会発表を行った。 さらに、テレケリックスでの金属表面処理および接着剤としての利用を検討し、具体的には2種類のトリアジンチオールを用いて、溶液への浸漬法により銅板上にテレケリックスを合成することができた。この有機薄膜について分析・評価した結果についても、すでに学会発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2年目である平成31・令和元年度以降については、以下に示すような研究計画で進めていく予定である。 1.昨年度合成したポリオキサゾリン/PVC グラフト共重合体に、焼成ホタテ貝殻粉末等を充填した新規複合材料を調製する。グラフト共重合体の前駆体であるテレケリックスの合成では、今回予想外の反応を起こしたものとは別種のトリアジンチオールを合成してテレケリックスを作製することを検討する。2.PVC への無機物充填方法の検討:ホタテ貝殻粉末によりPVC の機械的強度の向上と抗菌性の付与が期待し、より効果的な充填方法を探索、貝殻粉末の含有量、混合方法などを各種検討し分析。3.抗菌シート作製条件の検討:シート作製時の条件も重要であるので、均一なシートにする最適な方法も各種検討する。さらに、シートを加熱処理した方が非加熱の場合に比べ引張強度が増加するという知見があることから、その熱の方法も種々検討する。引張強度・耐熱性の向上および抗菌性の付与について試験する。4.機能追加の検討:ホタテ貝殻粉末等を添加したグラフト共重合体を、無機層状化合物に種々の方法でインターカレーション、高度分散させ、機能をプラスした新規有機・無機複合材料を合成する。材質の強度や耐熱性などの高分子体機能の向上、ガスバリア性等新規機能の発現を図ることを目指す。5.抗菌材として青森ヒバ成分を錯体形成により結合させた可塑剤フリー新規材料開発。6.テレケリックスによる有価金属イオンの吸着による回収を検討。7.今回得た知見を基に、テレケリックスでの金属表面処理の検討をさらに進める。また、金属と有機高分子体、または金属とガラスとの接着効果を各種方法で評価。8.PVC以外の高分子材料に、トリアジンチオール末端ポリオキサゾリンであるテレケリックスをグラフトさせる方法を検討、作成したグラフト共重合体の物性を検討
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次年度使用額が生じた理由 |
平成31(2018)年9月に札幌市で行う予定であった学会が、直前の大地震により開催中止となり、要旨集の発行のみとなった(学会発表としては成立)ため、予定していた出張がなくなり、旅費の使用が当初の計画より少なくなったためである。 今年度も昨年度と同様、少なくとも2回の学会発表を行う予定であることから、今年度分の旅費予定額(80,000円)ではかなり不足となる。このため、昨年度の残金(50,458円)は、旅費として使用する計画である。
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