研究実績の概要 |
本研究の目的は,高解像度の植生図と最新の分布予測モデルをもとに,日本の森林植生帯の分布構造の検証を行うことである。本年度は,植生分布データベースをもとに作成した植物群落分布予測モデルと,高解像度植生図をもとに作成した植生分布予測モデルを比較し,最終的な予測精度の検証を行った。また,将来気候データベースを元に100年後の植生帯の分布予測を行い,気候変動に脆弱な森林植生と地域について検討を行った。 昨年度開発した,天然林優占種(マツ科モミ属・トウヒ属・ツガ属,ブナ科ブナ属・コナラ属・シイ属など)の分布データと環境データに基づく植物群落分布予測モデルの改良を行った結果,各植生帯(常緑広葉樹林,暖温帯針葉樹林,冷温帯針葉樹林,落葉広葉樹林,亜高山帯広葉樹林,亜高山帯針葉樹林)の分布予測精度が向上した。本研究の結果,各植生帯の分布は,自然林で優占する37種の潜在生育確率と相関があること,すなわち植生帯区分の妥当性が明らかとなった。 将来予測の結果,暖温帯針葉樹林(58.4-100%減少)と亜高山帯針葉樹林(59.1-99.8%減少),亜高山帯広葉樹林(56.7-98.2%),冷温帯針葉樹林(48.7-97.8%)の面積減少割合が大きかった。占有面積の大きい冷温帯広葉樹林でも,面積減少割合は14.6-64.2%であった。面積変化がないのは暖温帯広葉樹林のみであった。以上のことから,温暖化は日本の植生分布に影響を及ぼす可能性が大きいこと,南方に分布する暖温帯針葉樹林であっても,その影響を大きく受ける可能性が高いことが示唆された。 植生分布予測モデルの論文を国際植生学会のApplied Vegetation Scienceに投稿した。現在,審査中である。
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