現状の浸透膜モジュールでは,浸透膜が本来持っている浸透性能の1/3程度しか発揮されていない.浸透膜の透水性能を低減させる大きな要因として,塩分濃度分極とファウリングという現象がある.本研究では,これらの現象を,水の流体力学的な挙動,イオンの移流・拡散挙動を連成解析する数値シミュレーションを開発し,それを用いて,透水性能を低下させる現象のメカニズムとその特性を解明し,本来の膜性能を発揮・維持する方法を開発することを目指す.2020年度は,前年度までに開発した濃度分極およびファウリングをコンピュータ上でシミュレーションすることができるモデル・プログラムを行い,中空糸膜の配置が濃度分極および浸透量に及ぼす影響,気泡を用いて水中のファウラントを捕集する方法の有効性について検討した. (1)膜配置と浸透量の関係: 低レイノルズ数の海流水中に膜(中空糸)を複数配置したシミュレーションを行い,膜表面近傍における塩分濃度分布および水の浸透量に及ぼす膜配置の影響について検討した.中空糸を格子状に配置するより千鳥配列した方が浸透量が多いことが分かった.また,流れ方向に膜を配置すると浸透量が低下することがわかった. (2)膜配置と濃度分極の関係: 濃度分極の発達には流速が大きな影響を持つことが分かった.また膜(中空糸)を束にして配置した場合,束の内部は流速が小さくなるため濃度分極が発生しやすくなることがわかった. (3)気泡によるファウラントの捕集: 水中における気泡およびファウラントの挙動についてシミュレーションプログラムを行い,疎水性のファウラントが気泡表面に吸着しやすいことがわかった.また,ファウラントの親水性に関わらず,気泡によってファウラントの固体壁面への付着量を低減できることがわかった.
|