研究課題/領域番号 |
18K11744
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研究機関 | 大分工業高等専門学校 |
研究代表者 |
菊川 裕規 大分工業高等専門学校, 機械工学科, 教授 (70321528)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 再生可能エネルギー / 風力発電 / ジャイロミル風車 / モーフィング / 弾性翼 / 風洞実験 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
近年,再生可能エネルギーへの期待が高まっている.中でも風力発電は発電単価も安く有用性が高いが,大型風車はメンテナンスコストの増大や経年劣化により減少している.メンテナンス性が良く小型で高効率な風車が開発されれば有用性は高い.小型でも比較的高効率な風車としてジャイロミル風車に着目したが,起動トルクは小さく,高速回転時には破損の危険性がある.そこで,モーフィング技術を応用した弾性翼によるパッシブ制御を行うことで,相反する問題点を同時に解決する風車開発の着想に至った.一般的に垂直軸風車は流れ場が複雑になり,ロータ性能の予測が難しい.弾性翼が変形することで誘発される渦との相互作用や可変ピッチによる最適な迎角を自動的に制御するための機構など明らかにすべき問題は山積している.本研究では,特殊風洞装置を用いた風車模型による実験と数値シミュレーションにより風車性能を向上させることが目的である. これまで,弾性翼として翼断面の後半部分が弾性フィルムで構成されたジャイロミル風車を試作し性能試験を行った結果,弾性フィルムが変形して起動トルクが向上し,高速回転時には遠心力の作用でブレーキが働くことを確認した.しかし,従来の固定回転翼の性能曲線とは大きく異なる性能曲線となり,期待したような高効率が得られなかった.そこで,高速度カメラを用いて回転中の弾性翼の変形量を明らかにし,変形量に応じて誘起される渦と主流との相互作用や可変ピッチ作用による最適な迎角を自動的に制御するための流体的作用を考察した.また,弾性係数の異なる複数の素材により弾性翼を製作し,変形量と変形形状の違いによる流体的作用を明らかにした.さらに,数値シミュレーションを用いて,回転中の翼と回転翼により誘起される渦と主流との相互作用を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで,弾性翼として翼断面の後半部分をPET素材による弾性フィルムで構成された三枚翼ジャイロミル風車を試作し性能試験を行った.その結果,後半部分の弾性フィルムが変形して起動トルクが向上し,高速回転時には遠心力の作用でエアブレーキが働くことでトルクが急激に減衰することを確認した.しかし,従来の固定回転翼の性能曲線とは大きく異なる2つの山が生じ,無次元化しても相似則が成り立たないことが明らかとなり期待したような高効率が得られなかったことから,以下のような研究計画・方法を実施した. 初年度に弾性翼の流体的作用を明らかにし,最適な効果が得られるような弾性翼の設計方法を明らかにした.弾性翼を翼断面の後半部分に追加することで従来の翼型と大きく異なることから,翼形状の変化による流れ場の変化にも留意が必要であるため,数値シミュレーションを併用して流れ場の変化を検証した.さらに,高速度カメラを用いて回転中の弾性翼の変形量を明らかにし,変形量に応じて誘起される渦と主流との相互作用や可変ピッチ作用による最適な迎角を自動的に制御するための流体的作用を考察した.次年度に弾性係数の異なる複数の素材による弾性翼を製作し,変形量と変形形状の違いによる流体的作用を明らかにした.弾性翼の素材と寸法の選択肢は無数にあることから,まずは,試作した弾性翼についての流体的作用を明らかにした上で最適な変形量を見積もることで素材の選択と寸法の選定を行った.昨年度は,弾性翼に加えて回転翼の周囲に集風効果と翼々干渉効果を期待して固定翼(ステーター)を設置することで性能向上を目指す予定であったが,期待したような効果が得られないことが明らかとなったため,ステーターを用いた性能向上方法を断念し,他の方法を模索している.計画していた改良方法と異なる手法を試行錯誤して模索しているため,計画よりやや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに引き続き,弾性係数の異なる複数の素材による弾性翼を製作し,変形量と変形形状の違いによる流体的作用を明らかにして最適設計の条件を検証する.高速度カメラを用いて回転中の弾性翼の変形量を明らかにし,変形量に応じて誘起される渦と主流との相互作用や可変ピッチ作用による最適な迎角を自動的に制御するための流体的作用を明らかにするとともに,数値シミュレーションを併用して流れ場の変化を検証する. また,弾性翼に加えて回転翼の周囲に集風効果と翼々干渉効果を期待して固定翼(ステーター)を設置することで性能向上を目指す予定であったが,期待したような効果が得られないことが明らかとなったため,ステーターを用いた性能向上方法を断念し,他の方法にて性能向上を目指す. さらに,本校所有のマルチファン型アクティブ制御乱流風洞の特徴を活かして変動気流の特性を明らかにする.本風洞は小型の送風機を独立に制御できる特殊な風洞で,任意の時間変動気流が発生できるため,変動気流における風車性能の変化を明らかにする.定常流で高性能が得られたとしても,自然風は定常状態で気流が作用することはないため,変動気流による性能変化を予測することが重要である.ステップ応答特性と周波数応答特性を明らかにし,気流流速と風車回転数との伝達関数を求める.風車重量の違いによる慣性の違いも大きく作用すると思われることから,慣性モーメントの違いによる応答性の違いを明らかにすることで変動気流への応答性を明らかにする.変動気流において誘起される渦が主流に及ぼす影響を明らかにし,非定常流における流体的作用を明らかにするために,引き続き数値シミュレーションを併用する.最終的に,サイズの異なる風車を設計する際の設計指針として,弾性翼の選定方法と回転翼設計方法と予測される性能の評価方法を提案することが目標である.
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