2021年度には1970年代における定常経済論と環境文学に見られる言説上の共振性を明らかにする研究を行なった。第一に、こうした研究においては、とりわけハーマン・デイリー(Herman E. Daly)に代表される「定常経済論」とアーネスト・カレンバック(Ernest Callenbach)の小説『エコトピア』の間に、生態学的に安定した状態(stable-state)での生存を目標とする社会に関する想像力の点で、言説的な共振性が見受けられることを明らかにした。このような共振性は、生態学的経済学(ecological economics)、環境文学(ecocriticism)、および、環境政治学(environmental politics)の間における相互補完的な読解の可能性を示唆するものと言える。第二に、また、上記の「定常経済論」と『エコトピア』の中に描かれている社会像は、「密の社会から疎の社会への移行」と「ニューノーマルの生活世界」という点において、ポストコロナ社会のあり方を模索する上でも役に立つものと言わざるを得ない。以上のような研究成果は、それぞれASLE-Japan/文学・環境学会の学術大会(2021年8月28日)、および、国際シンポジウム The Seventh International Symposium on Literature and Environment in East Asia (2021年10月24日)の場で発表された。なお、これらの発表内容は、同学会の学術雑誌『文学と環境』第25号において「生態系的定常状態の経済という観点から読む『エコトピア』」(29-37頁)という論文、および、「コロナ禍、距離、エコトピア」(59-60頁)というエッセイとして掲載される予定である。
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