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2020 年度 実施状況報告書

国際化時代における枯渇性地域共有資源の保全・利用・開発の国際比較に関する計量分析

研究課題

研究課題/領域番号 18K11752
研究機関京都大学

研究代表者

加賀爪 優  京都大学, 学術情報メディアセンター, 研究員 (20101248)

研究分担者 鬼木 俊次  国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 社会科学領域, 主任研究員 (60289345)
衣笠 智子  神戸大学, 経済学研究科, 教授 (70324902)
研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワード環境保全型農業 / プロスペクト理論 / 退耕還林 / 生態移民 / コモンズの悲劇 / PSM手法
研究実績の概要

2018年度はアファール州で首都アジスアベバに近いアヲッシュ地域で現地調査を実施したが、2019年度はアジスアベバから北西500kmで同じアファール州の州都であるセメラ地域で現地調査を実施した。2018年度のアヲッシュ地域が国の首都に近いことから農畜産物の流通業の比重が高かったのに比べて、セメラ地域は牧畜中心の比重が高いが、以前に調査した北部ティグライ州のメケレに比べると貧困の度合いは深刻である。
鬼木は、エチオピアのティグライ地域において、確率的生産関数を推定し、植林に対する共有地配分政策の効果を評価した。その際、準実験方法を用いてこの計画への参加農民と非参加農民の間で農業生産の技術的効率性を比較し、共有地の配分が技術的効率性を改善すること、さらにこの計画は、土地を保全しながら農業所得を増大させうることを示した。従って、共有地の配分は、サハラ以南アフリカの山岳地域で持続可能な土地利用を推進することを明らかにした。
加賀爪は、ミャンマーの分析の他に、中国の3つの主要穀物生産州(山東省、湖南省、安徽省)の10県のデータを収集し、パネルデータによる固定効果モデルを分析した。その結果、農地規模拡大は単収を増加させないが、生産費を大きく引き下げ、穀物生産の単位利潤を増加させること、第2に、生産量と利潤に関しては、農地規模との関係で逆U字形を示すが、生産費との関係においてはU字形を示し、その転換点は1~1.333haであることを確認した。第3に、農地規模が単収と生産費に及ぼす逆比例の効果は時間的に漸減しつつあること、また費用効率性の優位性は徐々に低下していることを示した。
衣笠は、日本と中国に関して、自然災害が個人貯蓄率に及ぼす長期的影響および動学的効率性について計量的に分析し、さらに、国民の農村移住に関する決定要因についてアンケート調査を用いた実証分析を実施した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

一昨年は首都アジスアベバに近いアファール州南部のアワッシュ(Awash)市近郊を選んで現地調査を実施したが、昨年度は、アジスアベバから北東に約500kmの農牧地域であるセメラ地域で農牧民調査を実施した。この地域は、アファール州の州都であるが、アワッシュ(Awash)よりも市場経済の浸透度はかなり遅れている。この点に注目して、アワッシュ地域と比較することで、市場経済の浸透状況が農牧民の行動に与えるインパクトを分析した。
これらの情報から、鬼木は、エチオピア北部高原の11村落で任意抽出により選んだ936戸の農民に対して実施した経済フィールド実験(公共財実験ゲーム)のデータを用いて、共有林管理に関する保全情報の提供の効果(共有林管理への協力に与える効果)について分析した。その結果、情報提供の効果は自発的な貢献を増大させること、その効果は、都市アクセスや社会資本、資産等の社会条件および個人特性により均質ではないことを示した。
加賀爪は、新型コロナウイルスの蔓延により、エチオピアの現地調査はできなかったため、ミャンマーに重点を置き、国民栄養状態とコメ産業の構造変化および国際米市場との連動性について計量経済学的に分析した。過去3時点における「農林水産業を中心とする産業連関表」を推定し、コメ産業とミャンマー経済全体との連関関係について論じた。さらに、ミャンマーの①WTO加盟(1995年)、②アセアン加盟(1997年)、③計画経済から市場経済への移行に伴う米産業の完全民営化(2003年)などの状況変化により、ミャンマー生産者米価と国際米価との連動性が強まったことを統計的に実証した。
衣笠は、日本と中国に関して、自然災害が個人貯蓄率に及ぼす長期的影響および動学的効率性について計量的に分析し、さらに、国民の農村移住に関する決定要因についてアンケート調査を用いた実証分析を実施した。

今後の研究の推進方策

最近の状況では、新型コロナウイルスの世界的蔓延があり、エチオピアでの現地調査を昨年同様に実施できるかどうか未確定であったが、研究期間延長した最終年は全体の予算が少ないため昨年度までの研究基金の残額を今年度に持ち越した資金の範囲内で実施することを余儀なくされる。大規模な現地調査は望めないが、当該地域を対象とした既存の調査研究の帰結との比較検証を通じて、本研究の客観的信頼性を高めるよう分析結果を改良する。当初の研究役割分担に従って、鬼木が主に東アフリカの帰結を導き、衣笠が日本を中心に分析結果をまとめる。加賀爪が中国と隣国ミャンマーの事例を加えて、全体的意義を導出する。その為には、ミクロデータの収集が不可欠となるが、農牧民のアンケート調査に対する現地の根強い抵抗が予想以上に強く非協力的なため困難に直面している。昨年度は、農牧民への現地調査によるミクロデータ収集を効率的に実施するために、アファール州北部(ティグライとアバラ)での農村調査研究については、メケレ大学のメラク准教授を調査研究補佐、IbklavNegash助手を通訳として雇い、またアファール州南部(アヲシュ市)では、エチオピア農業畜産資源研究所研究員WeldegabriealG.Areaawi博士を調査研究補佐とて雇用し、メケレ大学のIbklavNegash助手を通訳兼調査補佐として現地調査研究体制を組織化した。更に、アファール州北東部のセメラ地域の農牧民調査研究に関しては、セメラ大学講師のSirageMohammed氏をカウンターパートとして雇用したが、今年度は新型コロナウイルスの変異種の流行が危惧されている為、場合によっては、昨年までに収集した情報とアンケート・データに基づき、その統計的加工と各種モデルの推定を中心として、また可能ならば追加的な補足調査により、研究を進めて政策的意義を導出することを計画している。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウイルスの蔓延により海外現地調査が不可能になり、また緊急事態宣言の発出等により国内の出張や現地調査も困難になったため次年度使用額が生じた。
今年度は、昨年度にできなかった現地調査の補足を実施し、これまでに収集した統計・データ-の分析とその一部を委託することにより、データ処理と分析結果の学会発表等に使用する計画である。

  • 研究成果

    (15件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 6件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 図書 (3件)

  • [雑誌論文] Study on the Intertemporal Change of the Relationship between Farmland Size, Land Productivity and Production Cost: Taking China's Major Grain Producing Province as an Example2021

    • 著者名/発表者名
      Caihua XU, Masaru KAGATSUME and Jin YU
    • 雑誌名

      国際開発研究

      巻: 30 ページ: -

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Investigating sustainability of regional decarbonization through the global value chain analytical framework - a case study of Germany2021

    • 著者名/発表者名
      Shuning CHEN, Keigo Akimoto, Masaru Kagatsume, Yankun Sun
    • 雑誌名

      Journal of Cleaner Production

      巻: 29 ページ: -

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] ミャンマーにおける米産業の構造変化と国際市場との関係2020

    • 著者名/発表者名
      加賀爪 優
    • 雑誌名

      伊東正一、松江勇次編著『世界におけるジャポニカ米の流通、食味および展望』(第5章担当執筆)

      巻: 1-1 ページ: 90-106

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 「養父市の国家戦略特区の農業および経済に対する効果ー統計データ・実績・取引業者への聞き取り調査に基づいて― 」2020

    • 著者名/発表者名
      衣笠智子・衛藤彬史・安田公治・豊澤圭
    • 雑誌名

      『国民経済雑誌』

      巻: 222(6) ページ: 23~37

  • [雑誌論文] “Do Natural Disasters Influence Long-Term Savings?: Assessing the Impact of the 2008 Sichuan Earthquake on Household Saving Rates Using Synthetic Control”2020

    • 著者名/発表者名
      Luo, Kevin, and Kinugasa
    • 雑誌名

      China: An International Journal

      巻: 18(3) ページ: 59~81

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] “Dynamic Efficiency in World Economy”2020

    • 著者名/発表者名
      Kevin Luo, Tomko Kinugasa, and Kai Kajitani
    • 雑誌名

      Prague Economic Papers

      巻: 29(5) ページ: 522~544

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] “Preparation determinants for migration to rural areas in Japan: empirical analysis using questionnaire data”2020

    • 著者名/発表者名
      Etsusaku Shimada, and Tomoko Kinugasa
    • 雑誌名

      International Journal of Economic Policy Studies

      巻: 15 ページ: 55~74

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Efficiency impact of the communal land distribution program in northern Ethiopia2020

    • 著者名/発表者名
      Oniki S, Berhe M., Takenaka K.
    • 雑誌名

      Sustainability

      巻: 4436 ページ: 1-14

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Improving cooperation among farmers for communal land conservation in Ethiopia: A public goods experiment2020

    • 著者名/発表者名
      Oniki S, Etsay H., Berhe M., Negash T.
    • 雑誌名

      Sustainability

      巻: 9290 ページ: 1-16

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] エチオピアの共有林保全活動におけるモチベーションクラウディングアウト効果2021

    • 著者名/発表者名
      鬼木 俊次 ベルヘ メラク ネガシュ テクライ エツァイ ハフトゥ
    • 学会等名
      2021年度日本農業経済学会大会
  • [学会発表] “Fragmentation, competition, and decarbonization: empirical evidence from Germany during 2000-2014 ---Based on the Global Value Chain analytical framework---"2020

    • 著者名/発表者名
      Shuning CHEN and Masaru KAGATSUME
    • 学会等名
      The 2020 Annual Conference of Taiwan Association of Input-Output Studies (TAIOS) (November 28, 2020, National Taiwan University)
    • 国際学会
  • [学会発表] 「農家のIT化に関する計量的研究 -兵庫県養父市の農家データを用いて-」2020

    • 著者名/発表者名
      衣笠智子;衛藤彬史;安田公治;豊澤圭
    • 学会等名
      第70回地域農林経済学会大会(オンライン)
  • [図書] 甲子園大学紀要、No.48、(第1章:ミャンマーの国民栄養状態と食料農業部門の構造変化)担当執筆2021

    • 著者名/発表者名
      加賀爪 優
    • 総ページ数
      52
    • 出版者
      能登印刷株式会社
  • [図書] 伊東正一、松江勇次編著『世界におけるジャポニカ米の流通、食味及び展望』2020

    • 著者名/発表者名
      加賀爪 優
    • 総ページ数
      340
    • 出版者
      養賢堂
    • ISBN
      978-4-8425-0579-4
  • [図書] 大和大学研究紀要、第6巻 (ミャンマー連邦共和国における米作部門の産業連関構造と国際米市場との連動性)担当執筆2020

    • 著者名/発表者名
      加賀爪 優
    • 総ページ数
      108
    • 出版者
      東洋印刷株式会社

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公開日: 2021-12-27  

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