研究課題/領域番号 |
18K11753
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉野 章 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (80240331)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 環境配慮行動 / 消費者行動 / コンジョイント分析 / 潜在クラス分析 / グラフフェッドバター / マーケティング論 |
研究実績の概要 |
消費者の環境配慮製品に対する購入意思を定量的把握における潜在クラス・コンジョイント分析 (LCCA) の可能性を検討した。LCCA は,消費者の反応についてのパラメータの計測をその多様性をパターン分けという形で保全する.マーケティングにおけるセグメンテーションの概念と整合性のある手法であって,最終的に消費者への働きかけを意識した環境意識の把握のために有用性が高い.すでに確立した手法で,多くの先行研究も存在する.しかし,一般消費者に対するアンケート調査を通じた選択実験においては,回答者によって信頼性の低い回答が含まれるため,こうしたデータをどのように見極め,その影響をいかに排除するかは課題である。2020年度は,環境に配慮した牛乳を原料とするバターに対するアンケート調査結果を解析した。ただし,直接LCCA推定を行う前に,消費者の反応を潜在プロファイル分析で細かくパターン化し,抽出された各グループごとに選好パラメータを階層ベイズ推定値の尤度比検定で統合していくという手順による推定方法を試みた.その過程で,回答の信頼性が疑われるサンプルや,信頼性はあるが特殊な選好と判断される少数のサンプルの除外が可能となり,同質性が高くその性格について解釈が容易な消費者グループごとに,分散の小さな推定ができることが分かった.その結果は,「農業情報学研究」に投稿し採択された.こうしたデータスクリーニングを行った上でLCCAで一括推定した場合との比較が課題として残される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度はマーケティング論と整合的な環境配慮行動の分析手法の検討を行い一定の成果がえられた.すなわち,マーケティング論における消費者への働きかけは,消費者セグメンテーションが起点となるが,消費者の環境配慮行動をパターン化して分析する手順を示すことで,これと整合的な形で定量分析を加える方法を示すことができた. 2021年度は,一般的な環境意識と具体的な環境配慮行動について研究の蓄積がある社会心理学的研究の問題点を指摘し,経済学的な視点を加えた環境配慮行動の分析枠組みの提案を行う予定である.ただし,これについては,すでの一定の検討を行っており,概ね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
消費者の環境配慮行動の分析は,主に社会心理学の分野で行われてきた.そこではAjzenモデルあるいは広瀬モデルといった分析枠組みが多用される.これまでの検討でわかったことは,それらは環境意識や規範意識が具体的な環境配慮行動につながるかといった規定関係についての仮説であって,主に共分散構造分析で分析されてきた.しかし,そこには強い仮定が置かれてきた.すなわち,連続変数で測れる環境意識や規範意識の強さがあって,その程度の差が環境配慮行動を左右するという.そこには問題も多々あり,例えば,利用可能性が限れれているなどの制約条件の扱い方は,経済学の消費者行動理論との整合性がない.消費者の環境意識や環境配慮行動の規定関係そのものの多様性・多元性についての分析枠組みは,マーケティング論の実践的な消費者に対する見方からすれば極めて単純である.実証手段である共分散構造分析は,連続変数の制約や,推定されたパラメータの推定値を解釈しづらい,消費者の意識と行動の多様性を分析手法組み込めないなどの問題がある.今年度は,環境配慮行動の分析枠組みとして,社会心理学の成果に経済学とマーケティング論の視点を加えた修正を行う.また,具体的なテーマについてのアンケート調査結果を分析する分析方法の提案を行い,最終的な取りまとめとする予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果を「農業情報研究」に投稿したが,掲載決定までに時間を要したため,掲載が2021年度となった.このため,掲載料相当分が次年度使用額として残された.また,2019年度に計画していたアンケート調査の費用が当初計画よりも大きくなり,これを2020年度予算で補填したため,2020年度実施予定だったアンケート調査を,2021年度の予算配分と合わせて行うこととした.
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