研究課題/領域番号 |
18K11768
|
研究機関 | 流通科学大学 |
研究代表者 |
酒井 彰 流通科学大学, 経済学部, 教授 (20299126)
|
研究分担者 |
原田 英典 京都大学, 地球環境学堂, 助教 (40512835)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 都市スラム / 衛生行動 / 行動規定要因 / 共同トイレ / 手洗い / 下痢症リスク / リスク認知 |
研究実績の概要 |
途上国の都市スラムの共同トイレ利用者は、下痢症などの高い感染リスクにさらされていることが指摘されているが、リスク低減のためには、排便後の水洗、ならびに手洗いの励行など、スラム住民の衛生行動の変容が必須である。 本研究では、これまでに、排便後の水洗、手洗い、食前の手洗い、ならびに家庭内での飲料水の貯留状況を対象に、衛生行動の実態ならびに衛生行動を規定する要因について、質問紙による量的調査を行った。その結果、排便後の水洗については、高い頻度で行っているとする回答者とそうでない回答者で、トイレの汚さへの不満、他人の視線、後の利用者への配慮といった意識的な要因において、有意な差がみられた。さらに、水洗・手洗い用水の確保といった物理的要因においても有意な差がみられるとともに、衛生に関する知識量の多寡においても有意な差がみられた。手洗いに関しては、生活環境が感染しやすい脆弱な状況にあると感じている回答者は、排便後、食事前の手洗いを励行している傾向がみられた。 また、上記の物理的要因の状況とその対応策を議論したフォーカスグループディスカッション(FGD)において積極的発言をした参加者を対象に行った個別インタビューに基づく質的調査からは、対象スラムにおいて、その罹患頻度の低下から、感染性下痢症リスクの認知レベルが低下している可能性が見いだされた。スラム住民の健康に関わる関心は、非感染性疾患に向けられている。下痢症に対する低い認知レベルと、衛生行動が伴わず、糞便に起因する感染源となっている共同トイレの状況との間には、乖離があると言わざるを得ない。 このほか、衛生行動の変容に関わる物理的要因の解消によるトイレの清潔さの改善ならびに共同トイレ利用者の行動変容を促す効果について調査するため、8室のトイレをもつ共同トイレの各室に手洗い設備を導入した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変容が求められる衛生行動について、その規定要因に関する調査を実施し、その結果から、行動変容を促すために必要な介入について有益な知見を得ることができた。一方、FGDにおいて積極的な発言をした住民へのインタビューに基づく質的調査から、以前と比べて下痢症の罹患頻度が低下したことから、下痢症認知レベルの低下が示唆されたが、糞便汚染源であるトイレの状況、排便後の手洗いに必要な水源や設備の不足している状況との間に乖離があるとみることができることから、認知レベル向上と改善意思形成のための介入の必要性があることが分かった。2019年度において、衛生行動を変容しようとしたときの物理的制約解消による衛生行動ならびにリスク低減効果を分析するが、そのための準備としてスラムトイレに手洗い設備を導入した。
|
今後の研究の推進方策 |
都市スラム共同トイレに新たに導入された手洗い設備を利用することにより、利用者が排便後の水洗や手洗いにおいて、行動変容がどの程度進むかについてモニタリングをしていくとともに、トイレ周りで利用者が接触する箇所に付着する大腸菌濃度について、この設備を導入していないトイレと比較し、こうした設備導入による下痢症リスク削減効果を計測する。 一方、新たなスラムにおいて啓発活動を実施し、下痢症リスク認知の向上を意図した啓発活動を実施し、啓発活動を受けた住民が、衛生行動の変容のために、物理的制約の解消を含めて自ら問題を見出し、解決策を提案する参加型啓発プロセスを適用し、住民が共助的活動により衛生行動を主体的に変容させていく能力向上の程度を評価する。 手洗い設備の導入と参加型の啓発活動による衛生行動の変容を促進する効果ならびに感染性下痢症リスク削減効果を総合的に評価する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
調査対象スラムに前年度設置した手洗い設備の支払い日が年度をまたいでしまったために生じた繰越金である。
|