途上国の貧困層コミュニティにおいて、糞便汚染による下痢症リスク低減のためには、共同トイレの改善、適正管理だけでなく、排便後の水洗、手洗いなど、利用する住民の衛生行動の変容が必須である。 行動変容を促すためには、衛生知識の普及とともに、衛生行動を妨げている物理的要因の解消により、衛生行動の定着を図ることも必要である。 本研究では、住民啓発とトイレへの給水設備等の導入によって行動変容の促進がNGOによって実践されたコミュニティと、より簡便に水洗と手洗いが可能な設備をトイレに導入したコミュニティでのトイレ利用者の意識ならびに行動変容を調査した。なお、衛生行動の励行によって、トイレの清潔さが維持されるかについては、大腸菌の分析を担当した現地の大学が長期間ロックダウンされたために実施できなかった。 前者においては、衛生行動が確実に行えるようになり、その結果トイレが清潔になったという回答がほとんどを占めた。一方、後者では便が残されることが高頻度で観察され、水洗と手洗いが同時にできる設備が、構造が脆弱であったため故障頻度が高く、衛生行動が定着したとは言えない状況となった。このコミュニティでは、衛生教育的な啓発活動を行わなかったこともあり、行動が設備に依存する傾向がありながら、その設備が故障しても迅速な対応がとられなかった。衛生行動の必要性が十分認識されていないことが理由として考えられる。 共同トイレは、コミュニティにとって、命と健康を守るための共有資源と考えられ、その清潔さを維持するにあたって、利用者には、同じトイレを利用する他者への影響を配慮するといった規範が求められる。さらには、こうした規範を育むためには、社会関係資本の醸成が必要であるが、前者のコミュニティでは、住民がNGOによる介入活動に関与することで、設備を維持するなどの活動への参加意識の高まったという回答が高い割合を占めた。
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