研究課題/領域番号 |
18K11773
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡田 泰平 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (70585190)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 戦時性暴力 / 日本軍 / フィリピン / セブ / ビザヤ地方 / 憲兵 / 軍律裁判 / 司法 |
研究実績の概要 |
本年度においては、2018年度10月に、フィリピン・サンカルロス大学の学会誌Philippine Culture and Society Quarterly に、論文を投稿した。数回の往還の後、本論文は掲載が決まったが、先方の都合により、11月以降ゲラの作成などには進んでいない。2019年度の早期に刊行されることを期待している。 また、2018年11月9日は東京大学ヒューマニティーズセンターの公開レクチャーで、最新の研究成果の報告をすることができた。地理情報を日本軍史料とBC級戦争裁判資料から描きだすもので、おおむね好評だった。また、11月の日本フィリピン研究国際大会(Philippine Studies Conference in Japan, PSCJ2018)では現在フィリピン政治と暴力の問題を問うパネルを招集し活発な議論が展開された。 さらに、2月には「性暴力と裁判―フィリピン戦が伝えるもの」『グローバル化する<正義>の人類学』昭和堂, 2019年2月28日, 199-232を刊行した。 3月末には、フィリピン・セブに赴き、セブ州タリサイ長におけるタカスというセブ解放の記念日のコメモレーションを参与観察した。また、現地の調査協力者と懇談する機会を得、いわゆるグローバル・サウスにおける記憶の継承に対する知見を深めた。さらには、従前より交渉していた、『セブ地方史集』(Cebu Provincial History Series)55巻の寄贈をセブ州政府から受けることができた。 本科学研究費の研究計画で示した諸項目の内、項目のほぼすべてに着手することができたと言え、上々の滑り出しである。2年目には上述のものも含めて、更なる成果の公表に努め、異なる戦場で異なる性暴力が行われたことを論証し、事実に基づく冷静な議論の土台を構築することに努めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述したとおり、共著の一編、発表一度、文献資料収集、その他投稿一点を行っており、予想以上の成果を上げることができた。 投稿中の論文は2014年の日本語論文で使用したBC級裁判資料に加え、防衛省戦史資料室の資料とセブ・サンカルロス大学セブアノ・スタディーズセンター所蔵の資料を使ったものであり、本格的な軍事史研究となっている。 また共著本の一章では、戦時性暴力に対する司法の追及が、通説で言われているような1990年以前にも起きていたことを論じるものであり、それは日本軍による拷問を訴追しようとするアメリカ軍がいわば偶発的にレイプやその他戦時性暴力を発見し、それゆえに訴追していったことを論じた。 このように資料としては、防衛研究所やセブ現地の資料を収集し使用することができた。また、ゲリラの行動などを勘案した軍事史にも一歩踏み出すことができたし、国際司法との関係の中に、日本軍の性暴力を位置づけることができた。予想したよりも、より学際的に戦時性暴力についての考察を深めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年は、いわゆるフィリピンにおける「記憶の政治」も含め、第一には上述論文の刊行にまで至りたいし、その上で日本語または英語における発表を積極的に行いたい。また、単著刊行の核となりうる主要な論文を書きあげ、執筆し、投稿したい。 可能であれば、セブのみならず、ボホール、パナイ、ネグロスの島々での調査も行いたい。 それぞれの戦場における比較を、軍事史・制度史に基づいた論考にて行いたく希望しており、このアプローチが主要な方法となる予定である。その一環として、上述の国際司法との関係や軍事史として、より精緻な議論はできる余地が大きく残されており、精緻さの追求を今後の課題として位置付けたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計上していた、『セブ地方史集』については寄贈を受けたため、その購入費用がかからなかった。その反面、PSCJでのパネルについては、海外からのゲストや国内旅費が多くかかり、予想以上の出費となった。差し引いた結果18万円ほど2019年度へ繰越となった。
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備考 |
サンカルロス大学では資料を使わせてもらっているし、編集局のベルサレル氏とは研究協力をする関係にある。タリサイ・コミュニティ・カレッジの学長バカルトス氏が開催協力しているセブ解放記念祭タカスには、参与観察させてもらっている。両学校はセブにある。
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