研究課題/領域番号 |
18K11773
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡田 泰平 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (70585190)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 戦時性暴力 / 日本軍 / フィリピン / セブ / ビザヤ地方 / 憲兵 / 軍律裁判 / 司法 |
研究実績の概要 |
ビザヤ地方とは、フィリピン中部の多島地域である。そのなかから、セブ、ネグロス、パナイ、ボホール及びその周辺の島々を対象として、アジア太平洋戦争期の日本軍による性暴力についての研究である。本プロジェクトの過程で明らかになってきたのは、およそ次の三点の観点である。 ①現地社会の特有の文脈、戦時における戦略的位置、関わった日本人のその後を検討すると、性暴力とは一律の現象ではなく、それぞれの事例が大きく異なる。日本人の手記、家族との手紙のやり取り、その後の日本・フィリピン双方における記憶、日本人の慰霊とフィリピン人関係者との再会などから、それぞれの事件についての実証的でありつつも「厚い記述」が可能である。このような「厚い記述」を積み重ねることにより、日本占領期に関しても、よりニュアンスに富み、より複雑なナラティブを描き出すことができる。 ②占領とは、軍による新たな法制度の強要であるが、戦時性暴力はこの新たな法の中でその違法性・合法性が問われる。戦時性暴力とは、A新たな法制度、Bその法制度における脱法行為(また合法行為)、Cその脱法行為が可能だった状況(または法の適用ができない状況)の考察が求められる。つまり、戦時性暴力の法社会学的なモデル化が可能である。そのような法社会学的モデルは、ナショナリズムと性暴力を繋げる言説に代わる、比較の視点を与えることになろう。 ③マクロの視点から見ると、戦時性暴力とは、裁かれることにより、社会的意味を持つ。性暴力は、1990年代以降に国際刑事裁判で裁かれるようになったとの見解があるが、1940年代後半の戦争裁判でも、十分ではないと言え、明らかに刑事訴追上の対象である。改めて、実証的に戦時性暴力の世界史を描くこと求められている。 本研究は、これら三つの観点から進められている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2017年度、2018年度と各年度に一本は本テーマにおける研究論文を刊行することができたが、それが途切れてしまった。フィリピン・セブのサンカルロス大学のジャーナルに提出した論文が、昨年度中に刊行されたなかった。2018年末に刊行が決定されているが、未だに刊行されていない。とりわけ、本研究プロジェクトにおいては、研究成果を現地社会と共有することが目的の一つであるので、このような状況は残念である。 他方、10月には、レイテ戦75周年の研究大会に呼ばれ、発表を行った。フィリピンの地方史研究者と知り合うことができたのは大きかった。その他には、広島市立大学の新たな戦争裁判研究、岩波書店を中心とした戦争社会学の研究に関わることができた。
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今後の研究の推進方策 |
20年度は本研究プロジェクトの最終年度である。9月にスペインで行われるフィリピン研究国際大会で、フィリピン人二名、オランダ在住のアメリカ人一人、私からなるパネル発表を計画していた。パネル発表は認められたが、コロナウイルスの流行のせいで、大会自体が開催日程未定の延期になってしまった。 また、日本兵の体験記を英語で刊行することが、サンカルロス大学の研究者との話には上っている。しかし、上述の未刊行論文の件もあり、今年度中の完成は難しいと思われる。 さらには、この間も裁判関連資料は読み続けてきているが、夏くらいを目途に、ビザヤ地方の公判資料の悉皆調査を終えたい。その上で、戦記もの等の周辺資料の調査を進めたい。また、性暴力をめぐる他の事例の研究やフェミニスト思想を調査してきている。これらの調査を総合する形で、単著本の原稿を完成したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた国際会議が招へいによって行われたため、その経費が浮いた。
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備考 |
本研究の一環として、戦時性暴力とフェミニスト思想についての授業を行った。以下のHPに、その記録を載せてある。(授業内容→2019年度Aセメスター→War and Sexual Violence in Historical Perspective) https://taiheiokada.com/
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