研究課題/領域番号 |
18K11774
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
萩尾 生 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 教授 (10508419)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バスク語 / 少数言語 / 通信教育 / 遠隔授業 / 言語復権 / フランコ体制 |
研究実績の概要 |
研究2年度目には以下の4つの作業に従事し、最初の2つの作業からは仮説的な結論が導き出された。 まず、昨年度入手したバスク語通信講座教材の記述内容と音声資料の分析を引き続き行った。その結果、同教材が、意識的にバスク語ギプスコア方言をベースにして制作されており、当時バスク語アカデミーが主導して正書法の標準化を進めていた「共通バスク語」に対して、必ずしも賛同しない姿勢をとっていることがわかった。 次に、同教材の制作に深く関わった学界関係者がバスク語アカデミーの会員であったことを特定した。同アカデミー内に「共通バスク語」をめぐる賛否両論があったことは知られていたが、当該会員の思想的背景は、今後掘り下げていく主題となる。なお、各種の視聴覚教材は1970年代以降目覚ましい技術的進歩を遂げたが、主としてギプスコア方言とラプルディ方言を基盤にして創出された「共通バスク語」が1980年代以降バスク社会で広く市民権を獲得していったことは、そうした技術的進展とは別に、この通信講座教材の需要が同時期に低減した要因の一つと考えられる。 また、過去に通信講座の受講者が確認されたバスク・ディアスポラ社会に接触すべく、2019年11月にバスク自治州で開催された「第6回世界バスク系コミュニティ会議」に参加し、証言や資料の収集に対する協力を依頼した。 最後に、フランコ体制下における通信教育講座関連の法令文書を、スペイン教育省の文書室とバスク自治州のギプスコア県公文書館で探索した。総論的な法令文書の確認はとれたが、バスク語通信教育の認可という個別事例になると、各種議事録における断片的な言及は見いだせたものの、具体的な認可文書の存在は現時点でとれていない。探索作業は引き続き行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のとおり、教材の制作者が特定でき、教材の内容についても分析が順調に進んでいる。 バスク語通信教育に関連した法令文書を複数の公文書館で探索したが、現時点でその存在を確認することができていない。独裁体制下にあっては、議事録の不備、公文書の破棄や散逸がしばし発生しており、これはある程度想定内のことである。引き続き探索を行う予定だが、別の観点から傍証を固めていくことも検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる来年度には、教材の分析を、今後は教育方法論に着目して行う。その過程で、教材制作者の言語思想ないし言語教育思想を探っていく。そのために、バスク語アカデミーの文書資料室を再度訪問する予定である。 次に、バスク語通信教育に関する認可文書等を、昨年度は開館準備中で訪問できなかったバスク文書館にて探索する。バスク語教育に関する史資料が一手にここに集められているからである。 最後に、当該バスク語通信教育を実際に受講した者に関する資料や証言を集める。米国ネヴァダ大学バスク研究センターの文書室に、全課程を修了した受講生の記録が保管されていることが判っている。また、パリの「バスクの家」のアーカイヴにも何らかの記録が保存されている可能性がある。 ただし、新型コロナ肺炎の影響で、スペイン、フランス、米国への入国に支障をきたす可能性が高い。実際、米国アイダホ州でバスク系コミュニティが5年に1度集まる文化イベントは、1年延期されて2021年開催予定となった。この催しにはかつての受講者が参加する可能性があるので、接触を図っていたのだが、本研究は、場合によっては1年延長することを、選択肢の一つに入れざるをえない。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の当初計画に基づき、2019年11月にバスク自治州で開催された「第6回世界バスク系コミュニティ会議」に参加して聴き取り調査を行うことを予定し、そのための旅費と謝金を計上していたが、主催者から旅費の支給を受けることとなったほか、聴き取りに対する謝金を固辞されたので、その分、次年度使用額が発生することとなった。新型コロナ肺炎の今後の状況にもよるが、次年度には、聴き取り調査の一部をオンラインで実施するための諸経費に充当することを検討している。
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