研究課題/領域番号 |
18K11775
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
栗原 浩英 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (30195557)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 同志 / 共産党 / ベトナム / 中国 / 党・国家関係 |
研究実績の概要 |
2018年度は1950年代から1970年代半ばにかけての時期(以下第Ⅰ期と称する)を対象に,ベトナム・中国間の「同志性」を規定する上で大きな要因となったと考えられる中ソ関係・中ソ対立(中国とソ連の差異)について,中国語,英語,ロシア語による研究書や回想録,対外経済関係文書を中心に把握することに努めた。特に対外経済関係の分析に重点をおいたのは,中ソの経済力は無限ではなく,ベトナムの要求にどう対応するかという点に「同志性」の特質が表出しやすいと推測されたためである。すでに朝鮮のケースに関しては,中ソ両国から派遣される技術者などの専門家の処遇という面では,中国の方が朝鮮に負担を強いる度合いが低かったことが沈志華によって指摘されている[沈志華『最後的“天朝”』(増訂版)中文大学出版社,2018年,287-288頁]。また,ベトナムに対するソ連の経済援助が現地の事情を勘案せずに機械的に実施されたものであったことが,第Ⅰ期のソ連側の実務担当者から重大な問題点であったと回顧されている[И.А.Огнетов, На вьетнамском направлении, М.: Гуманитарий, 2007, с.102-103]。 以上のように,大筋において中ソの他の社会主義国に対する経済援助の特徴や問題点は把握できたが,本研究の代表者によるロシア国立経済文書館,ベトナム国家第3文書館での資料調査による限り,第Ⅰ期においては,中国・ソ連ともにベトナム側の経済的な要求に実直に応じており,現時点でその差異を見出すのは困難である。そこには,中ソ対立の中で,両国が米国を相手に戦うベトナムへの支援を弱めるわけにはいかなかったという事情が大きく反映されていると考えられる一方で,第Ⅰ期のベトナムと中国の「同志性」が必ずしも盤石なものではなかったことが示されているともいえるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第Ⅰ期のベトナム・中国間の「同志性」を明らかにすべく,2018年度は,ベトナム・中国関係,ベトナム・ソ連関係,中ソ関係について,研究書と回想録,資料集を中心として分析した。そこにどのような特質や問題点があるかはすでに述べた通り,大筋において把握できたと考えられる。しかし,ロシア国立経済文書館,ベトナム国家第3文書館で閲覧した,ベトナム・ソ連間及びベトナム・中国間の経済関係に関する文書資料の考察からは,「同志性」をめぐる中ソ間の決定的な差異を見出すことはできず,むしろ類似性・共通性の面しかみえてこない。ただし,これは一部の文書資料の解析から得られた暫定的な結論であるため,さらに文献資料調査を継続する必要がある。また,当初,研究書等以外に,公刊された一次資料として,ベトナム・ソ連・中国の共産党機関紙に依拠しながら,祝電や共同声明に盛り込まれた語句や表現を手掛かりに,「同志性」の考察を進める予定だったが,2018年度中に着手するには至らなかったため,2019年度の主要課題として位置づける。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き第Ⅰ期のベトナム・中国間の「同志性」について,細部を明らかにするため,2019年度は『ニャンザン』,『人民日報』,『プラウダ』などベトナム・中国・ソ連の党機関紙等,経済関係文書,外交文書など一次資料に依拠しながら分析を進める。特に各種祝電や首脳訪問時の共同声明において,相互の「同志性」がいかに表現されているのかを把握することは,「同志性」の意味するところが歴史的にいかなる変容を遂げてきたかを探究する上で極めて重要であると考えられる。このようにして,第Ⅰ期の「同志性」の構造や変容を明らかにした上で,1991年以降現在に至る時期(本研究では第Ⅱ期とよぶ)の「同志性」を考察するための基盤としていく。なお,本研究は後述するベトナムの状況に照らして,下記の点を新たに分析の対象として追加する。ベトナムでは,共産党指導部からは1979年から1980年代にかけて中国との戦争をどのように評価するか公式見解はないままだが,近年,ベトナムのいくつかの地方では1979年から1980年代にかけて中国との戦争での犠牲者を追悼する施設が建設されたほか,SNSを通じて中国との歴史的な関係について個人的な見解を積極的に発信するブロガーも登場してきている。2018年7月には1988年の海戦に関する回想録(Gac Ma Vong tron bat tu, Ha Noi: Nxb Van hoc, 2018)も初めて出版された(その後訂正箇所があるとして回収処分となった)。本研究では,前述の追悼施設にある碑文の内容や,SNS,回想録も分析の対象としながら,第Ⅰ期の「同志性」に内包される「同志」が「敵」へと一転してしまう構造についても探究を深めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入費が当初の見積額より少ない金額で確定したことや,ロシアの文書館の都合により,資料複写代金の支払いが年度内に間に合わなかったことにより,次年度使用額が生じるに至った。2019年度は当初の配分予定額900,000円に,次年度使用額76,741円を加えた予算を以下のように使用する予定である。前年度と同様に,予算の大半を,ベトナムとロシアでの文献資料調査,隣地調査,資料収集に充当する。具体的にはベトナム(ハノイ他),ロシア(モスクワ)への渡航のための旅費として670,000円を計上する。また,物品購入としては,中越関係,中ソ関係,ベトナム・ソ連(ロシア)関係に関する英語・中国語・ベトナム語・ロシア語の図書購入代金として206,741円を計上する。その他,資料複写代金,郵送代として100,000円を計上する。
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備考 |
1979年2月の中越国境地帯での戦争(狭義の「中越戦争」)から40年が経過した2019年2月17日,その歴史的意義についてBBCベトナム語放送より取材を受けた。 Chien tranh 1979: Mat trai cua vua la dong chi, vua la anh em <https://www.bbc.com/vietnamese/vietnam-47265262>
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