研究課題/領域番号 |
18K11775
|
研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
栗原 浩英 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (30195557)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 同志 / 共産党 / ベトナム / 中国 / 党・国家関係 / 兄弟 |
研究実績の概要 |
2019年度は1950年代から1970年代半ばにかけての時期(以下第Ⅰ期と称する)を対象に,『人民日報』デジタル版の検索サイトを利用して,中国が他の社会主義国に対してどのような修辞をもって相互の関係を表現しているかを分析した。その結果,社会主義国同士の関係においては政府間関係・党間関係・国民間関係が混然としているものの,「兄弟」という語が使用されるのが一般であることが判明した。ベトナム・中国関係においては,「同志・兄弟」が登場する1963年以前は「兄弟にも似た友誼」,「困苦を共にする兄弟」などのような形で使用されている。他方,1963年以降,「同志・兄弟」はベトナム・中国間にしか適用されないユニークな修辞であることも確認することができた。なお,検索に利用したのは下記の二つのサイトであり,適宜マイクロフィルム版の『人民日報』とも照合を行った。 <http://www.oriprobe.com/PeoplesDaily.shtml>;<https://new.zlck.com/rmrb/> また,2019年に引き続き,本研究の代表者はBBCベトナム語放送より,ベトナム・中国関係を専門とする研究者として取材を受けた(2020年2月26日)。中越戦争というと,1979年2月から3月にかけての国境地帯での武力衝突に焦点が集中しがちだが,長期的なベトナム・中国関係を視野に入れれば,陸上・海上で武力衝突が断続的に発生した十年間(1979年―89年)を一体化してとらえる必要があることを指摘し,2019年の時と同様,大きな反響を得た。[Nguoi Nhat hoi 10 nam xung dot Viet-Trung (1979-89) dem lai gi ?<https://www.bbc.com/vietnamese/vietnam-51645686> ]。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第Ⅰ期において,「同志・兄弟」という修辞がベトナム・中国間に限定されたものであったことは2019年度内に確認することができた。しかし,ベトナム・中国間の「同志・兄弟」関係はベトナム・ソ連関係と比較して,実態面でどのような差異をもっていたのかについては結論を得るまでに至っていない。換言すれば,ソ連と中国が対立関係にあった以上,イデオロギー面での主張は異なるにせよ,経済援助や軍事援助などプラクティカルな面において,どのような偏差がベトナムのとの関係において生じたのかという問題である。2019年度もロシア国立経済文書館で,引き続きベトナム・ソ連間の経済関係に関する文書資料を閲覧した結果,中国に比較してソ連の方が援助や貿易の契約履行に厳しかったのではないかという感触は得ているが,依然としてベトナム・中国関係との類似性・共通性の面しかみえてこない。2020年度もロシア国立経済文書館で文献資料調査を継続して,一定の結論を出すことにしたい。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は,第Ⅱ期(1991年~現在)のベトナム・中国間の「同志性」について,『ニャンザン』,『人民日報』などベトナム・中国の党機関紙,経済関係文書,外交文書など一次資料に依拠しながら分析を進める。第Ⅱ期に「同志・兄弟」関係の適用範囲は,ベトナム以外にキューバと南アフリカにまで拡大されたが,2019年これらにモザンビークが新たに加えられるに至った。中国がこれらの国々を重視していることは確かだが,「同志・兄弟」関係適用の基準を明確に述べた文献は管見の限り存在しない。そのため,「同志・兄弟」関係適用となっていない国々をいくつかピックアップして,上記4か国と比較対照することにより,第Ⅱ期の「同志・兄弟」関係適用基準を明らかにする。具体的には,まず中国と関係が深いラオス,タンザニア,ザンビアを比較の対象とするところから始める。 なお,2021年初頭にはベトナム共産党第13回党大会が開催されるものと思われる。党大会に向けた準備の過程及び党大会で採択される諸文書で,対中関係がどのような位置を占めることになるか,SNS上の一般国民の反応もみながら注視していきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
【残金が生じた理由】2019年12月にベトナムへの渡航を計画していたが,面談を予定していたベトナム社会科学アカデミー中国研究所の研究者が体調不良により,長期入院してしまったため,計画を断念せざるをえなかった。これが残金の生じた大きな原因である。 【2020年度の使用計画】2020年度の当初の配分予定額800,000円に,前年度の繰越金74,219円を加えた予算を以下のように使用する予定である。2020年度は,コロナ感染の終息が見通せない段階ではあるが,年度後半に可能であれば,前年度同様にベトナムとロシアでの文献資料調査,隣地調査,資料収集を実施する。具体的にはベトナム(ハノイ・ダナン他),ロシア(モスクワ)への渡航のための旅費として50万円を計上する。また,物品購入としては,中越関係,中ソ関係,ベトナム・ソ連(ロシア)関係に関する英語・中国語・ベトナム語・ロシア語の図書購入及び記録媒体等の購入代金として274,219円を計上する。その他,資料複写代金,郵送代として10万円を計上する。
|