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2020 年度 実施状況報告書

「同志性」からみたベトナム・中国関係の変容と展望に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 18K11775
研究機関東京外国語大学

研究代表者

栗原 浩英  東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (30195557)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワード同志 / 共産党 / ベトナム / 中国 / 党・国家関係
研究実績の概要

2020年度は,第一に本研究の定義する第Ⅱ期(1991年~現在)のベトナム・中国間の「同志性」について,要人の発言や共同声明などを中心に分析を進めた。その結果,ベトナム・中国関係においては,「同志・兄弟」というキーワードによって両国・両党の共通性を強調しようとする中国の立場と,個別の努力を強調するベトナムの立場の差異が,より明確になってきたことがわかった。2021年1月25日から2月1日にかけて開催されたベトナム共産党第13回党大会においても,対外路線に関しては,従来の全方位外交が踏襲されることになり,中国も含め,特定の国との関係について明示的に言及されることはなかった。これらの点は,近未来の両国関係を展望する上で重要な指標となろう。第二には,中国の主張する拡大された「同志・兄弟」関係のもつ意味合いを明らかにするために,体制面での共通性や長期に及ぶ友好関係がありながらも,「同志・兄弟」関係が適用されていない若干の国々(ラオス・タンザニア・ザンビア)をとりあげ,中国との共同声明などを手掛かりに,「同志・兄弟」関係の適用下にある四か国(ベトナム・キューバ・南アフリカ・モザンビーク)との相違点の抽出を試みた。その結果,政府間関係のみならず,政党間・軍事組織間の長期に渡る緊密な関係,中国にとっての資源供給など戦略的な重要性(南アフリカの場合)が考慮されているのではないかという暫定的な結論を得るに至った。この点は,中国が各国に対して適用するキーワードにどのような意味を込めようとしているのかを把握する上で極めて重要である。
また,アジア政経学会2020年度春季大会(5月,ウェブ上で開催)において,本研究で得られた成果を反映する内容をもって,「中越十年戦争と現代」をテーマとするに分科会の企画と実施にあたった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

第Ⅱ期において,中国側が拡大解釈された「同志・兄弟」という語にどのようなニュアンスを込めようとしているのかという問題については,少数のサンプル(母体)に基づくものではあるが,初歩的な結論を得ることができた。また,現在のベトナム・中国関係を分析するにあたり,「同志・兄弟」というキーワードのもつ重要性に立脚する本研究の視点の正確さが,2020年度の首脳間の会談や交流を通じて引き続き確認された。具体的には,グエン・フー・チョンと習近平の電話会談(2020年9月),ベトナム共産党第13回党大会に際してのメッセージのやり取り(2021年1月~2月),さらには年度を越えてしまうが,中国国防相のベトナム訪問時の発言(2021年4月)がそれにあたる。
また,アジア政経学会での分科会を準備する過程において,1960年代末から70年代前半にかけてベトナム・中国間の交渉形式に変化がみられることから,ベトナム側もホー・チ・ミン個人に依存してきた「同志・兄弟」関係からの脱却を図っていたのではないかとする仮説を提示するに至った。
他方,2020年度に解明を進める予定であった,第Ⅰ期におけるベトナム・中国間の「同志・兄弟」関係はベトナム・ソ連関係と比較して,実態面でどのような差異をもっていたのかという課題については,コロナ禍によってロシアへの渡航が不可能となってしまったため,新たな関連資料を閲覧することができなかった。したがって,2019年度までに得るに至った論点を超える成果を得るに至っていない。

今後の研究の推進方策

2021年度は,本研究の最終年度として,これまでに得られた成果のとりまとめにあたるほか,まだ暫定的な結論しか得るに至っていない以下の二点について精査を進め,本研究の成果をより精緻なものとすることをめざす。第一には,前述した1960年代末から70年代前半にかけてのベトナムの対外交渉方式に関して,果たしてそれ以前の交渉方式と重大な差異がみられるのかどうか,党機関紙や外交文書を中心に詳細な分析を行う。そこでは,ベトナム・中国間の国境画定交渉や対米和平交渉が中心的な位置を占めることになるだろう。第二には,本研究の規定する第Ⅱ期(1991年~現在)における中国によって拡大解釈された「同志・兄弟」関係の意味する内容について,比較対照の母数を増やすことによって,さらなる解明を図る。具体的には,北朝鮮及びアフリカ諸国(南アフリカとモザンビークを除く)と中国の関係を視野に入れ,各種共同声明や首脳間での発言で中国側が使用するキーワードを抽出することによって,関係性の差異を明らかにすることをめざす。

次年度使用額が生じた理由

2020年度はコロナ感染症のパンデミックのために,予定していたベトナムとロシアへの渡航が不可能となった。そのために予定していた旅費等を消化することができず,多額の残金を生じさせることとなった。
2021年度の当初の配分予定額700,000円に,前年度の繰越金681,850円を加えた予算を以下のように使用する予定である。2021年度も,前年度に引き続きコロナ感染の終息が見通せない状況にはあるが,年度後半に可能であれば,ベトナムとロシアでの文献資料調査,隣地調査,資料収集を実施する。具体的にはベトナム(ハノイ・ダナン他),ロシア(モスクワ)への渡航のための旅費として70万円を計上する。また,物品購入としては,中越関係,中ソ関係,ベトナム・ソ連(ロシア)関係に関する英語・中国語・ベトナム語・ロシア語の文献資料購入及び記録媒体等の購入代金として581,850円を計上する。その他,資料複写代金,郵送代として10万円を計上する。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2020

すべて 学会発表 (1件) 図書 (2件)

  • [学会発表] 中越十年戦争の歴史的位置2020

    • 著者名/発表者名
      栗原浩英
    • 学会等名
      アジア政経学会
  • [図書] 現代アジアと環境問題2020

    • 著者名/発表者名
      豊田 知世、濵田 泰弘、福原 裕二、吉村 慎太郎
    • 総ページ数
      334
    • 出版者
      花伝社
    • ISBN
      978-4-7634-0932-4
  • [図書] 20世紀の東アジア史2020

    • 著者名/発表者名
      田中 明彦、川島 真
    • 総ページ数
      1056
    • 出版者
      東京大学出版会
    • ISBN
      978-4-13-020309-8

URL: 

公開日: 2021-12-27  

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