2023年度の成果としては,まずフランス外交史料館(パリ及びナント)における外交文書閲覧を通じて,フランスがベトナムからの要請に応じ,1978年3月,清仏戦争(1884年―85年)後に調印された北部国境線関連の協定を提供していたことが判明した。本研究の代表者は第I期の「同志性」の特徴として,国境未画定状態を指摘してきたが,フランスによる文書提供は,1970年代後半に至るまでベトナムが清仏戦争後の国境線の状況について把握していなかったことを示す証左として注目に値する。次に2022年のベトナム共産党書記長グエン・フー・チョンの訪中に続き,2023年12月には習近平中国共産党総書記・国家主席がハノイを公式訪問したため,両国の共同声明,首脳の発言や報道状況について詳細に分析した。共同声明にこれまでベトナムが同意してこなかった「運命共同体」が盛り込まれ,両国関係は「運命共同体」関係に格上げされたかのようにみえるが,ベトナム側は「運命共同体」という語を用いず,「未来共同体」との表現を用いており,巧妙な戦術で中国からの圧力をかわしたともみることができる。 本研究の研究期間全体を通じての成果としては,「同志・兄弟」という語に着目して,中越関係の考察にあたった結果,特に習近平指導部が,中越両党・両国の一体感を強調するという状況の中で,それを全面的に拒否するという姿勢はとらないものの,中国の路線に取り込まれないように慎重に立ち回っているベトナムの姿勢が明確になった。その反面,習近平指導部による一体感の強調は,1991年以降両国関係が第I期の「同志性」の限界を克服しながら構築されてきたことが理解されていないことの反映でもあると考えられ,それが今後の両国関係にとっての不安定要因であるともいえる。
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