研究課題/領域番号 |
18K11779
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研究機関 | 福島県環境創造センター |
研究代表者 |
黒田 佑次郎 福島県環境創造センター, 研究部, 主任研究員 (50538783)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リスクアセスメント / 住民参加 / 災害時の公衆衛生 / 放射線防護 / 科学の公衆理解 / ステークホルダー / 科学コミュニケーション / シチズン・サイエンス |
研究実績の概要 |
本研究は、福島原発事故後の被災地域において、住民自らが放射線測定に関わり状況を把握していった事例を「住民参加型リスクアセスメント」とし、その活動の展開と広がりを質的研究の手法で検討するものである。初年度実施した予備的調査をもとに、二年目はより詳細なin-depthインタビューを行った。対象者の選定には復興の程度を鑑みることと、性別と年代(とりわけ働き世代と高齢期)が関連していることが予備調査で示唆されたため、それらが分かれるように選定をした。質的分析としてSteps for Coding and Theorization(SCAT)を用いた。
20名の質的データについて、1)避難指示解除後の地域の課題、2)リスクアセスメントが可能となった要件から分析を行った。1)では、避難の長期化、意欲の低下、後継者不足と先行き不安、コミュニティの分離(住民間の意識の違い)、除染後の農地への不安・不満等の心理社会的な要因が挙げられた。2)では、住民は一般論(県や市町村のデータ)ではなく、自分たちの生活環境の詳細なデータを知りたいという動機があったこと、放射線の一般的な知識ではなくコミュニテイの課題(営農再開や地産地消の復活)を解決するための活動であったことが特徴的だった。それを可能とする要因として、ソフトスキルの高い人の存在、チームの存在(リーダーシップ、企画・統率、行政や専門家とのネットワーク)、フェイズに応じた柔軟な対応を行なっていることが挙げられた。
また文献検討から、上記の分析結果を解釈したところ、科学の非専門家が科学知識生産のプロセスに主体的な関わる活動、つまりシチズン・サイエンス(CS)の活動との類似点・相違点が観察され、今後はCSとの比較も視野に入れた分析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画で予定していた項目、1)研究計画の策定、2)調査フィールドとの信頼の構築、3)予備調査の実施4)本調査に至るまで、計画通りに実施ができたことから「おおむね順調に進展している」と評価した。また、得られた結果を学会でも報告し、関係者と意見交換を行うことで、次年度の研究計画に有意義な情報を得ることができたことから、順調に進展していると言える。
当初の計画よりも発展している部分もあるが、予定していた海外の事例収集がCOVID-19の影響で進めることができなかった。そのため最終年度は海外の事例収集を強化し、福島での事例と比較することで、より一般的な知見に結びつける。
成果の発信については、投稿中の論文が2報あることから順調に進んでいると評価できるが、この点についても最終年度に加速化する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、つぎの二点について集中的に研究を進める。ひとつは、本研究成果と科学技術社会論(STS)で研究が進んでいるシチズン・サイエンス(CS)との比較を通じた知見の接続である。CSを研究するSTS研究者と連携をし、類似点と相違点を明らかにし、一般的なモデルを導き出すことを目指す。二点目は国際比較である。福島で行われたCS的活動は、過去の原子力災害でも行われていることが報告されており、それらの事例について、関係者(可能であれば住民)にインタビュー調査を行い、福島で得られた知見との比較を行う予定である。
さいごに、福島で行われた「住民参加型リスクアセスメント」の活動とそれを通して見えてきた住民の反応は、新たなリスクとして表出したCOVID-19状況とも共通点が認められる。また公衆衛生上の対策を講じる上でも重要な知見をもたらすことが期待される。そのため、本事例に加えて、COVID19状況下の社会調査(住民の予防行動との関連)を実施も視野に入れ、研究の展開を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた福島県内での調査について、年度中につくばの産業技術総合研究所から福島県環境創造センターに転籍したため、国内旅費を使用する必要がなくなった。また、国際学会での報告を予定していたが、COVID19により学会が延期となり、国外旅費が未使用となった。謝金についても福島県の職員からの支援を得ることができ、外部の研究補助員に謝金を支払う必要がなくなった。以上のことから未使用分が残る結果となったが、最終年度は大規模な調査を予定しているため、その調査に割り当てるとともに、国際学会でも報告をするため予算を消化する予定である。
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