研究課題/領域番号 |
18K11781
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
園田 節子 兵庫県立大学, 国際商経学部, 教授 (60367133)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 中国国民党 / 僑務 / カリブ海地域 / トリニダード・トバゴ / 華僑 / ディアスポラ華人 / 旧英領植民地 / 越境性 |
研究実績の概要 |
研究2年目の当該年度は、8月に2週間強、英国オックスフォードとロンドンにて、英領西インド諸島において最も中国移民数が多かったトリニダード・トバゴ、ジャマイカ、英領ガイアナの産業と中国系家族に関する植民地行政史料、ならびに農業・エネルギー資源の歴史地図を調査、収集した。これらの英語史料は、初年度にトリニダードで収集した英中両言語の史料とともに分析し、社会経済史的側面の議論を強化した。 2年目の段階で、20世紀初頭から1949年までの英領西インド諸島トリニダードにおける華僑の社会的上昇に関する実証研究がまとまり、日本語と英語2編の論文として発表した。日本語論文は、グローバル・ヒストリーの枠組みから人の移動を論じる世界史叢書の一冊に、近現代の華僑華人史をグローバルに捉えて整頓した一編を寄稿し、このなかでカリブ海地域の華人の社会的上昇のパターンが提供する視座の新しさを指摘した。英語論文は、中華民国の華僑政策の展開がカリブ海地域に及ぶプロセスが、同時期に進行したトリニダード・トバゴの中国系住民が社会的に上昇していく過程とどのように交差したかを論じた歴史実証論文である。これは、辺境のグローバル・ヒストリー概念を用いた華僑史研究を特集したトロント大学の国際学術雑誌に所収された。 口頭発表による国内外での発信は、6月に国内学会年次大会のラウンドテーブルを1枠主催し、移動を前提とした社会的上昇パターンについて論じた。11月には早稲田大学政経学部の経済史セミナーで、トリニダード華人の社会的上昇について社会経済学史方面に焦点を置いた報告をしてコメントを得、また同月、コスタリカ大学が企画した中国学と華僑研究のテーマ国際会議に参加し、中国の僑務政策に対する中南米の中国研究者たちの関心を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度は、国内外で組まれた特集号への執筆を依頼される機会に恵まれたため、本研究計画において早期の段階で、20世紀前半の実証研究部分を出版することができ、大きく進展した。20世紀初頭から1949年までの時代は、トリニダードでは、同地の主要輸出産業が製糖、ココア生産、石油産業の順に移行するなかで、華僑はそのすべてに関わることで経済的に成功し、社会的上昇を果たした。経済的に成功したこの現地華僑層に、抗日戦争期に現地入りしてきた中華民国僑務委員の越境政治活動が関わることで、華僑社会内に中国と繋がる越境性が生まれた。中国移民の現地での社会的上昇と中華民国の華僑政策との相互の関わりにおいて最も重要な役割を果たしたのは、若く、英中双方の言語と文化に明るい特定の華僑商人層であり、これに注目した僑務委員や在外公館員が協力体制を作っていった。特定の華僑層にコミュニティ内部でのさらなる上昇経路が用意されたことは、同時期の他の地域の華僑社会内部で起こった事例との比較に役立つ。これを論じた実証論文を国際的学術雑誌に英語で発表できた。 また、コスタリカ大学の国際会議における英語発信で、国外における中国の華僑行政の展開を歴史的視点で論じられたことも、大きな成果になった。中国の一帯一路政策を受けて、現在ラテンアメリカ諸国では中国に対する関心が高まっており、中国の歴史文化やラテンアメリカ華僑に関する国際会議や行事が多く開催されるようになった。今回コスタリカ大学が開催した会議はメキシコやペルー、コロンビアの研究者も参加し、高レベルであった。そのなかで研究発表を契機に、コスタリカ大学の中国研究者と今後研究ユニットを通した学術交流に発展する道が開けた。研究発表は、コスタリカ大学が編集中であり、2020年度に出版される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本来、来年度は本研究計画中もっとも広域で国外調査を進める年度であった。しかし新型コロナウィルスの世界的流行によって、日本そして調査対象国の間の移動そのものに大きな支障が出ている。よって来年度は研究調査地と研究における重点的作業の内容を変更し、アウトプット中心で進める。過去2年の研究活動中に収集した史料の読解分析と論文の執筆、それらの学術雑誌への投稿をおこなうに当たり、20世紀初頭から半ばまでの社会経済史的分析を中心とした日本語論文、また民国外交部長陳友仁のディアスポラ華人の特徴を論じる英語論文を執筆する。 さらに1950年代末から1960年代初頭にかけての旧英領植民地華僑社会に関する実証研究を進める。すでに収集した史料の分析からは、トリニダード・トバゴが西インド連邦からの独立を図る際、その動向に注目していた遷台後の中華民国政府が、国交樹立の橋渡し役として抗日戦争期に協力的だった華僑商人層に再度接近したことが分かっている。戦後、台湾に移った中国国民党の中華民国の華僑政策には、戦中の華僑資源を用いて新しい国際関係を構築する試みがあったことを論じ、20世紀半ば以降のカリブ海地域華僑に関する研究を進める。 現在の外出自粛要請や資料館閉鎖状態が来年度中に解除され、研究活動上ある程度の移動の自由が確保された場合、国内ならびに台湾での公文書館や資料館、図書館での関連史料収集を随時実施する。
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