研究課題/領域番号 |
18K11781
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
園田 節子 兵庫県立大学, 国際商経学部, 教授 (60367133)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | トリニダード / 華人 / 英領植民地 / 社会的上昇 / 陳友仁 / 抗日戦争 / 独立 |
研究実績の概要 |
当該年度の成果は、研究論文の学術出版および長文コラムの商業出版と、国外における華僑研究の国際的共同研究への協力における新展開を得たことである。 論文は、20世紀前半のトリニダードの華人の社会的上昇の実証である。19世紀後半以降の現地における人種関係のなかで中国人労働人が置かれた位置づけや特徴的な華僑個人の社会的上昇を押さえながら、1930~60年代の間、とりわけ抗日戦争期と1962年トリニダード・トバゴ共和国成立前後に焦点をあて、広東系華人の商業的成功者と現地派遣された南京国民政府僑務委員会とのあいだに構築された協力関係とそれがもたらした現地華人の社会的上昇の新たな経路について論じた。論文は華僑華人を外交資源としながら現地に働きかける中国政府側の行政反応の歴史性を示す一編として、『イベロアメリカ研究』のアジア・ラテンアメリカ地域間関係特集号に掲載された。 他方、中世近世日本史研究者が編んだ鉱物資源史研究書に掲載された長文の歴史コラムでは、1850~90年代の環太平洋地域英語圏におけるゴールドラッシュと東南アジアの錫(ティン)ラッシュにおける中国人単純労働者と華商の活動を扱った。ゴールドラッシュは、華僑史では近代華僑最初の出国契機以上の意義が出ていないが、本コラムでは、金や錫の掘削が資本節約型労働集約型である時期にこそ中国人労働者が動員され、鉱業労働から見える近世と近代の過渡期現象でもあると論じた。本書の出版と同時に開催された大分市での歴史シンポジウムで総合司会を務め、一般に還元した。 また、前年度にコスタリカで初めて開催された中国研究・華僑研究の国際シンポジウムで研究の中間的成果を英語口頭発表したことをきっかけに、コスタリカ大学歴史学部から新規国際共同研究プロジェクトへの要請があった。大学研究資金申請で推薦者となり研究の実現化に貢献し、プロジェクトの一員として活動を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
コロナ禍によって当該年度に予定していた国内外調査が実施不能になり、ロンドンにおける中国系カリブ海出身者の再移民と文化調査ならびにトリニダード・トバゴにおける1930年代の現地華人企業の史料調査はいずれも延期した。研究の新展開には限界があったものの、研究計画をアウトプット中心に切り替えたため、過去2年間に収集した現地史料の分析と議論の活字化に集中できた。当該年度に発表した研究所紀要論文1本と長文歴史コラム1本はいずれも実証研究の論考であるため、十分な成果であったと捉えられる。 またコスタリカ大学歴史学部「コスタリカへの中国人の移住に関する歴史記憶の回復」の共同研究者として、2023年夏に招聘講師の一人としてサン・ホセにおける国際ワークショップと講演を担当し、かつ海岸部リモンにおけるコスタリカへの西インド諸島移民の共同調査をおこなう。本科研枠における過去の活動を契機に、コロナ禍であれ国際的共同研究への次の一歩を当該年度中に進めることができたのは、当初の計画以上に本研究の成果があがっている表われである。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、新型コロナの流行において国内外移動制限が研究活動に大きな影響を与える年度になることが確実であるため、国外調査前提の研究方針を切り替え、出版などのアプトプット中心に進めていく。 本研究の初期段階で実施した海外調査中に得られた研究視角や新たな発想に基づくさらなる調査は、新型コロナがある程度終息してから実施に移す。このため内容についても、英領西インド諸島華僑の視座や価値観の分析と議論を中心にする当初の計画をやや修正する。現段階では、陳友仁研究ならびにラテンアメリカの中華民国僑務の展開など、中国語公刊史料の利用がかない、かつ首都圏・台湾など比較的近隣での調査で実施できる関連研究に重点を移す。これにともなって、僑務担当者や民国政府側の議論を中心にしていく方策である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は英領西インド諸島の華人の研究であるため、新型コロナの世界的流行にともなう国際移動の制限によって、カリブ海地域やイギリスなど遠隔地での史料収集に直接影響が出た。とりわけ当該年度はロンドンにおける中国系カリブ海地域出身者のコミュニティ調査ならびにトリニダードにおける史料調査を予定した海外旅費の計上額が大きかったため、国外調査の取りやめに起因する未執行分が、次年度に繰り越しされた。 国内外での関連史料の収集は本研究の核であるため可能な限り実施する予定である。しかし、新型コロナの流行による移動の制限や不便が続いた場合は、高額の編纂史料集『民国華僑史料彙編』と『民国華僑史料三編』の購入に踏み切り、移動することなく研究を遂行する。 以上の工夫をもってしても最終年度の令和3年度に使用し切れない見込みが強くなった場合は、計画の一年間の継続延長申請を出し、4年計画から5年計画に変更し、着実に成果を上げながら研究を完遂する。
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