研究課題/領域番号 |
18K11781
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
園田 節子 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (60367133)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トリニダード / 華人 / 英領植民地 / 社会的上昇 / 陳友仁 / 抗日戦争 / 独立 |
研究実績の概要 |
本研究は、カリブ海地域と英国、台湾等で調査を行ない、国内外で空白の領域である20世紀カリブ海地域華僑華人史を文献実証史学の手法にインタヴューや参与観察を併用して学際的に研究することで明らかにし、同地域の主要な旧英領植民地諸国に住む華僑華人、ならびに英国等に再移民した同地域出身者に関する、1930年代から1970年代の事例を扱うものである。いまだに国家・地域毎のエスニック・コミュニティ研究として行なわれる華僑華人研究の領域に、長期・広域的視座からの新機軸を提出することを目標にしている。 新型コロナ変異種の流行のため、また勤務校の異動初年度という環境変化のため、国内外の中国系コミュニティや史料館で現地調査や史料収集を実施できず、本年度は民国期の華僑政策に関連する文献の購入と読解・分析に終始し、国内外出張の不自由による研究への影響を可能な限り最小化するに努めた。具体的には、公刊史料集『民国華僑史料彙編』を中心に、陳友仁関連研究や民国研究、さらに南北アメリカの中国移民ならびにアジア系移民に関する研究書を揃えた。さらに広く移民研究の最新研究動向に関する研究を押さえ、広義の移民研究の中で民国期華僑政策研究の持つ位置づけを考察し、そのアウトプットの準備を始めた。 当該年度は以上の作業を通して、北アメリカと全く異なる英領植民地環境の議論を長期時間軸で固め、研究会で発表した。これを踏まえて、英領カリブ海地域の華僑が、現地の教育制度と人種的階層社会の構造さらには植民地からの独立にともなう現地の価値観の変遷をうまく用いながら、中国との関係性を新たに作りつつ社会的上昇していった様相の分析と考察を続けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ変異種の発生を受けた調査地や日本の隔離方針や入国制限によって、前年度同様に国内外で調査の機会を持つことができず、これが本研究を遅らせた。また、2020年度のコロナ流行1年目に集中的に調査研究を活字化して一定の成果を出した結果、新型コロナ流行が2年目に入った2021年度は史料読解と執筆作業中心にならざるを得なかった。加えて所属機関を異動したことで、異動初年度として新任校の教育とその準備に時間を割かざるを得なかった。このため、研究時間の確保と論文執筆や学会参加などの研究アウトプットに集中できる期間が限られた。
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今後の研究の推進方策 |
補助事業期間の延長申請をおこない、2022年度に学会や投稿論文での発表機会を持ち、かつ資料整理や読解を継続し、活字発表をおこなう。 現地史料調査に関しては、4月現在、台湾が入国条件を緩和していっているため、夏季・冬季に現地調査が可能な状態であれば、長期休暇を利用して台北の中央研究院でラテンアメリカ・カリブ海地域における国民党の華僑政策に関する史料を収集する。西インド諸島は現地医療体制の限界によって入国条件が厳しいため、調査地から外す。また、1970年代までに英国に再移民したカリブ海地域出身の中国系住民に関するインタヴュー調査は、新型コロナの影響から不特定多数との接触を可能な限り回避することが求められる状況下、インタヴュイーに不快な思いをさせる事態を避けるために、研究計画から外す。 国際学会や国内の学会における研究発表とフィードバックの獲得については、英国が入国緩和をしているため、状況が大きく変わらなければオックスフォード大学で開かれる英国中国学会2022年年次大会で研究成果の口頭発表をおこなう予定である。また国内の複数の学会年次大会で個人あるいはパネル報告、コメンテーターでのコメントなどを通して本研究の成果を発表する。 さらに、まとまった公刊史料の購入を継続し、最終年度に当たる2022年度の1年間で可能な限り論文の活字化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は海外現地調査に最大の特徴がある。新型コロナの発生、その変異種の流行とが2年続いたため、国内外での史料収集がこの間できなかったのみならず国際学会での英語による研究発信も大幅に制限され、2年間、海外出張費が発生しなかった。 2022年度は、隔離期間の有無など国によって細かな条件は異なるものの、おおむね前年度に比べて調査対象国・資料収集国への移動がしやすい状況になってきた。このため、最後の研究調査を台湾で実施し、イギリスの関連国際学会で成果報告をおこなう予定である。 また、今後数年新型コロナの影響が残ると考えられるため、関連公刊史料集の収集にも重点を置く。これによって高額ながら有用な史料集を揃える予定である。
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