本研究は、20世紀カリブ海地域華僑華人史を、文献実証史学の手法にインタヴューや参与観察を併用して学際的に研究することで明らかにし、1930年代から1970年代の事例を中心的に扱うものである。 補助事業期間の延長申請によって最終年度となった2022年度は、新型コロナ変異種流行の収束とともに9月初旬から海外調査の機会を捉え易くなったため、計2回の海外調査を実施した。9月中旬に約3週間ロンドンの国立公文書館で植民地省文書(CO)原本を調査し、かつ公文書館館内端末からのみ無料で調査収集できるAdam Matthew Digital Libraryから関連史料をダウンロードした。この調査では、英領トリニダード島の中国移民に関して、19世紀のものは賭博問題と関連法令、1930年代のものは中国系業者の進出産業になった酒類販売業と石油事業の官報や植民地政府文書、華僑の意見書を渉猟し、これらの分析を通して中国系の具体的な社会的上昇の回路や程度、特に下層社会との連結について議論することが可能になった。さらに1920年代後半と1940年代の英領マラヤにおける民国僑務の調査史料、満州事変前後の民国外交部長陳友仁の行動に関する史料も収集した。現代の在英中国系西インド諸島出身者コミュニティでの聞き取りは、調査中にインタヴュー承諾者が1名現れたが、直前に被調査者がコロナに感染して実行不能になり、歴史学的調査に終始した。2023年2月に10日間おこなった台北の中央研究院近代史研究所档案館での外交部档案調査では、ラテンアメリカ地域全体への民国僑務の方針などを調査し、グローバルな僑務の中での英領西インド諸島の位置を明らかにできた。 国外調査に注力したため、成果のアウトプット面では、総合的な僑務の議論を学会や研究会でおこなった口頭報告が中心となった。論文発表は来年度以降積極的に進めていく。
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