ユーゴスラヴィア解体後に独立したマケドニア共和国は、国内の多民族共存システム構築に向けた諸改革を進めると同時に、対外関係では、国名における「マケドニア」名称をめぐる隣国ギリシャとの国名争議を抱え、EUを始めとするユーロ・アトランティック構造へは、加盟候補国の立場は認められたものの、加盟交渉自体を開始できないというジレンマを抱えていた。 本研究課題は、同共和国が①EUやNATOへの正式加盟に支障となっている国名争議を含む国際関係上の課題へどのように対応しているか、②これを連動して、独立後に志向してきた「国民国家」としてのあり方を、2001年の民族紛争を経てどのように変容させているのか、を検証することであった。新型コロナ拡大に伴う出入国制限の影響を受け、現地調査は必ずしも当初計画通り実施できなかったが、資料調査および現地研究者との情報交換等により、以下の研究成果を得た。 ①2018年にギリシャとの国名争議を解決した同共和国は、2020年にNATOへ正式加盟した。その経緯については、共著にて整理した。一方、EU加盟交渉の焦点は、ギリシャからブルガリアとの関係に移行している。2022年7月にフランスが提案した打開策(憲法改正を含む)については、実施面で足踏み状態にあり、両国の国内政治変化を踏まえた調査・分析が引き続き必要である。 ②マケドニア共和国の国名変更は、外交交渉過程で切り離したはずの国民意識や歴史認識と根底で結びついており、必ずしも広く合意を得られたわけではなかった。また、多民族性に配慮した複数言語の公用語化は、国民国家化に伴う新たな課題を提起した。これらを踏まえ、最終年度にあたる2022年度には、国名争議解決に至った2018年プレスパ協定を再検証し、なぜ三国国境地帯であるプレスパ湖畔で協定調印が行われたのか、南東欧国際関係史を踏まえた論文を執筆し、学術雑誌にて公表した。
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