研究課題/領域番号 |
18K11786
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
別所 裕介 駒澤大学, 総合教育研究部, 准教授 (40585650)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 仏教外交 / 一帯一路 / 国境開発 / チベット仏教 / ジャナジャーティ |
研究実績の概要 |
三年目となる本年度では、本来の研究計画に照らせば、調査対象地域である中国―ネパール国境地帯における「仏教と開発」をめぐる国家的な言説構築を、現地の地域社会におけるローカルな宗教的実践と突き合わせて検討を進める予定であった。しかし南アジアにおけるCovid-19の蔓延により、2019年度の2月~3月に行った現地調査を最後に、今に至るまで現地渡航は不可能となっている。このため、本年度推敲予定であった現地調査については来年度にまとめて行うこととし、今年度は以下の2点の実績作りに注力した。 1)文献調査 2)学会報告 このうち1)については、①前年度に現地で収集した文献資料の整理、②現地の仏教実践に関する映像資料の整理、③当該地域にかかる欧米の学術調査の成果についてのレビュー、の3点に絞って重点的に進めた。特に③については、1970年代にネパール・ヒマラヤの北部国境地帯で進められたドイツ調査隊による“The Nepal-German Manuscript Preservation Project”による成果の一部を閲読し、本研究課題にかかる国境地帯の仏教をめぐるローカルな信仰体系の起源と継承について、文献的な裏付けを得ることができた。 他方で2)については、2つの学会でここまでの成果を公表することができた。ひとつは日本南アジア学会(第33回全国大会)であり、中国の民族研究が今後のヒマラヤ研究に及ぼすインパクトを体系的に論じた。もうひとつは日本チベット学会(第68回大会)で、先述の③の成果を基に、現地の宗教実践に関するフィールドワーク調査との整合性を論じた。これらの研究報告については、次年度以降順次、当該学会の学術誌に掲載される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前記の1)と2)の研究活動により、質的調査によるデータ収集の進捗には全体的に遅れが出ているものの、これまで収集された分の資料については十全な解析を進めることができた。 また、現地のインフォーマントとはSNSを通じたやりとりが維持できており、Covid-19の変異株出現によるロックダウンはかなり厳しい状況となっているものの、本研究の調査集落に関してはいまのところ大きな被害は確認されていない。今後も、現地との連絡を保持し、インフォーマントのおかれた環境にも配慮しつつ、慎重に状況を判断していく必要がある。 いずれにしろ、本研究の当初目標では総計60日間のフィールドワークを予定しており、それが遂行できなかったことは、質的調査資料 の量的な欠如につながっている。このため、特にインフォーマントの暮らす地域社会の現状に配慮しつつ、当面はSNSを通じた現地情報の収集、並びに関連する仏教文献の資料研究を引き続き進めることとし、今後現地渡航が可能な状況が出来し次第、自他相互の感染リスクに十分配慮した上で、中断しているチベット仏教信徒に対するインタビュー調査と参与観察を再開させたい。
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今後の研究の推進方策 |
現地調査が再び可能になるまでの間は、前記の1)の③にかかる関連仏教文献の閲読を進めたい。特に、A)現地仏教社会においてドミナントな化身ラマ系統の把握、およびB)それに基づく宗教関係ネットワーク(血縁系統、師弟関係、転生系譜)の広域的な広がり、C)そうした宗教関係ネットワークの国境地帯における歴史的な意義、の3点に絞って読み込みを進める。また、本研究成果の国際的な発表機会として2022年度夏季に国際チベット学会が予定されており、査読を伴うエントリーが次年度中に必要となるため、そのための準備を進めていきたい。 他方、フィールドワークのための海外渡航が実施できない場合は、調査資料の大幅な不足が予想されるため、次年度の状況を見て、研究期間の延長申請を含む抜本的な対策が必要であると考えている。 また、日本国内においては引き続き、オンラインでの研究会合含め、ここまでの成果を精力的に発信し、関連する研究者と研究課題の共有を進め、多角的な情報収集に努めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の助成金の主要費目は海外渡航のための旅費で占められている。しかしCovid-19による事由のため、当該年度の夏季および冬季の現地渡航を見送らざるを得なかった。この分の繰越額については、翌年度にフィールド調査が可能になった段階で、海外渡航旅費として計上する予定である。
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