研究課題/領域番号 |
18K11787
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
井関 正久 中央大学, 法学部, 教授 (20343105)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ドイツ抗議運動 / 68年運動 / 旧東ドイツ市民運動 / 右翼ポピュリズム |
研究実績の概要 |
本研究はドイツにおける左翼と右翼の抗議スタイルの変遷とその過程で生じた両陣営間の相互作用、および運動の社会への影響という問題について、新左翼系抗議運動の出発点と位置づけられる1960年代まで遡り、現在のSNSを駆使した新しいタイプの抗議運動までを視野に入れて、実証的に取り組むものである。本研究は従来の左翼運動中心の社会運動研究にはなかった新たな視点を与えるものになると期待できる。それと同時に、両陣営の急進派勢力における抗議形態を分析することにより、抗議アクションと暴力行為との境界線を探るという点では、社会運動研究とラディカリズム・テロリズム研究の中間を埋めるものとなると考えられる。 平成30年度は、東西ドイツ時代の抗議運動(西ドイツの「68年運動」・「新しい社会運動」、東ドイツの体制批判運動・民主化運動)および現在ドイツで展開されている右翼ポピュリズムの運動について幅広く資料・情報の収集をおこなった。夏季休業中にはドイツにおいて、ハンブルク社会研究所(HIS)資料館やベルリン自由大学附属議会外反対派・社会運動資料館を中心に、上述のテーマに関する一次資料の収集をおこなった。 「ドイツのための選択肢」(AfD)や「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人」(ペギーダ)をはじめとする右翼ポピュリズム勢力は、「68年運動」後の価値観の変化や社会変容に対抗する姿勢を打ち立てている一方で、その台頭は、とりわけ旧東ドイツ地域で顕著であることから、ベルリン、シュヴェリーン、ドレスデンにおいて、旧東ドイツ市民運動家にインタビューをおこない、その背景についても調査した。「ベルリンの壁」崩壊をもたらした民主化運動と現在の右翼ポピュリズム運動との関係というテーマは、日本では未開拓の研究分野であるため、この聞き取りをもとに同テーマを考察していくことには大きな意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、ドイツにおける左翼・右翼両陣営の思想や抗議運動および急進勢力に関する専門図書・論文集・新聞雑誌を購入したほか、インターネットをとおして諸運動に関する最新情報を収集した。 そして夏季休業中にドイツにわたり、ハンブルク、ベルリンにおいて、ハンブルク社会研究所(HIS)資料館やベルリン自由大学附属議会外反対派・社会運動資料館を中心に、一次資料の収集をおこなった。さらに、まもなく「ベルリンの壁」崩壊から30年が経過するため、ベルリンのほか、旧東ドイツにあるシュヴェリーンとドレスデンにおいて、旧東ドイツ市民運動家へのインタビューをおこない、旧東ドイツでの市民運動の変化や右翼ポピュリズム勢力(「ドイツのための選択肢」AfDや「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人」ペギーダ)の台頭について話をうかがった。このほかにもハンブルクにあるドイツ・グローバル地域研究所(GIGA)副所長パトリック・ケルナー教授を訪問し、最新の研究状況に関する情報交換をおこなった。ドイツで収集した一次資料をもとに目下、論文執筆に取りかかっている。 研究会関連では、5月に広島大学で開催された第68回日本西洋史学会大会現代史部会に参加し、川﨑聡史氏の報告「西ドイツにおける学生の対米認識とその転換 ― 1960年代の社会主義ドイツ学生同盟(SDS)に注目して」の司会とコメンテーターを務めるとともに、歴史学研究者との情報交換をおこなった。 12月には東京大学本郷キャンパスにおいて科学研究費助成事業「グローバル関係学」主催シンポジウム「1968年再考―グローバル関係学からのアプローチ」にパネリストとして参加し、「1968年から半世紀を経て―ドイツの場合」をテーマに報告をおこなった。ここでは多くの研究者との間で、各国・各地域における「68年」研究の状況や比較分析の方法などについて意見交換ができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も引き続き、ドイツにおける左翼・右翼両陣営の思想や抗議運動および急進勢力に関する専門図書・論文集・新聞雑誌を購入するほか、さらにインターネットやSNSを駆使して諸運動に関する最新情報を収集する。 それとともに、1年目にドイツで収集した一次資料をもとに戦後ドイツにおける左翼運動の急進化過程における抗議スタイルの変遷、および今日の左翼運動にみられるその遺産についてまとめ、そこからどのようなプロセスを経て新右翼に抗議形態や戦略が吸収されていったのかを考察する。 そして、8月から9月にかけて、抗議運動の事例研究に関する一次資料を収集するためドイツにわたる。左翼関連では、ノーペギーダ行動同盟や急進左翼諸団体の集結するハンブルク「ローテ・フローラ」、アソツィアツィオーンA出版社などを訪問し、右翼関連ではペギーダや「ドイツのための選択肢」(AfD)、新右翼系雑誌『ユンゲ・フライハイト』編集部との接触を試みる。さらに両陣営組織の実態と活動戦略に関する詳細な情報を聞き取りによって収集する。急進派勢力については、情報公開を積極的におこなわず、事務所などの組織的実態を公表していないケースもあるので、開かれた情報宣伝活動を繰り広げて運動のプラットフォームとしての役割を果たしている出版社などから、情報を収集し、上記以外の諸団体とのコンタクトも試みる予定である。 帰国後は新たに収集した資料をもとに、論文執筆をさらに進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
機器類や図書・雑誌の購入費、さらに研究旅行先のドイツの資料館における複写費が、当初予定していたよりも安い金額で済んだため、次年度使用額が生じた。この金額はおもに図書購入費と研究旅費に使用する予定である。
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