本研究は人身取引対策において若年層の人身取引防止と人身取引に関する政策環境の整備を伴う社会開発の研究である。2023年度の本研究は、主に以下の3つの内容で進めることができた。 2022年に国内で成立した「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」と日本の人身取引防止及び被害者の支援との関係について考察するとともに、困難を抱えた若年女子に対する性搾取とその課題に取り組む団体の参与観察を行なった。日本では若年女子に対する性売買の強要や特殊詐欺などを人身取引事案と認識されておらず、人身取引研究の発信が求められている。本研究では、2023年9月に開催された国際ジェンダー学会で研究報告「開発とジェンダー:困難を抱える女性支援信奉とバックラッシュの諸相の考察」を行なった。 また2023年9月のタイ調査において、隣国ミャンマーでの戦禍からタイに逃れてきた避難民のタイ国内での対応から、人身取引の脆弱性とその社会的保護の必要性と、国境管理・出入国管理の厳格さという現実があることを認識し、タイで人身取引事案とされた一つの事件を追ってその対応を考察した。さらに1980年代から現在までのタイにおける人身取引対策の変化、経緯を概観し、重要なポイントでのキーパーソンのインタビューも実施することができた。 さらに国際移動の過程で発生する人身取引について、1950年以降の日本における経済開発との関係を探ってきたが、大型開発事業が行われた地域での移民・移民女性の需要との関連などフィールドワークを通して現代史的考察を進めながら深めることができた。
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