研究課題/領域番号 |
18K11796
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
二文字屋 脩 早稲田大学, 平山郁夫記念ボランティアセンター, 講師(任期付) (50760857)
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研究分担者 |
才田 春夫 富山国際大学, 現代社会学部, 教授(移行) (80350742)
伊藤 雄馬 富山国際大学, 現代社会学部, 講師(移行) (10795488)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 森のゾミア / 東南アジア大陸部 / ムラブリ / ポスト遊動狩猟採集民 / タイ北部 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、タイ北部で唯一の狩猟採集民と知られるムラブリを対象に、ムラブリの文化的特質を学際的なアプローチから明らかにすることで、今日の東南アジア山地研究(ゾミア論)の学問的空白を補うとともに、「森のゾミア」論を構築することである。この目的を達成するため、初年度は、2018年6月に富山国際大学にて共同研究者全員で本研究課題の内容と方向性を改めて相互に確認するとともに、それぞれの研究課題と研究調査スケジュールについて検討を行った。また、DropBoxを用いて本科研用のストレージを作成し、円滑な情報共有を行えるようにした。タイ北部ナーン県での現地調査は各研究者がそれぞれ実施し、自身の研究課題に沿った研究調査を行なった。人類学班は、遊動と社会性の関係について調査を行い、言語班はムラブリ語の方言差と語派内の特異性について調査を行なった。農学班はムラブリが利用する森の植物性資源について生態学的・栄養学的観点から調査を行うとともに、食用や医療用に用いられてきた有用資源の利用と効果の検証を行った。なお、これらの調査は、被調査者の同意を得て行われた。だが初年度は資料収集がメインだったこともあり、論文や学会発表を通じた成果の発表、そしてフィールドで得られた知見の理論化に十分な時間を割くことができなかったと考える。だが各自2回ほどの現地調査を行ったことで、予想もしていなかった新たな資料などを得ることが出来、調査の成果は十分にあったと考えている。なお、2019年3月には、フィールドにて共同研究者全員が集まり、初年度の成果を共有するとともに、2年目の予定について話し合った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各研究者は本研究課題における自身の役割に応じて文献研究と実地調査を実施してきた。初年度となる本年度に得られた知見は現在、国内・国外で開催される学会での研究発表や論文としてまとめられており、研究課題の内容に沿った成果を上げつつある。なお、2018年度の各研究者の研究活動は以下の通りである。人類学班は、遊動生活と社会構造の関連性を理論的に検討するとともに、定住生活にある今日でも「遊動性」が認めうることを民族誌的事例から考察検討し、「遊動民的社会性」という分析枠組みの有効性について検討した。言語学班は、ムラブリの集団間の分裂に関わる民話の収集と整理を行った。加えて、利用される動植物のうち、最も重要な位置を占める植物の一つである竹について集中的な調査を行い研究ノートを執筆した。農学班は、ムラブリの食生活と子どもの成長の関係や、労働状況などを含む生活実態について調査を行い、経済活動で相互依存の最も高いモン族との比較を行った。調査対象が少ないため、追加調査も行い、その成果は論文として公表の予定である。森の有用植物については、近隣の森での予備調査を行った段階だが、竹や薬用植物の利用などの知見が得られた。各班の研究成果はまだ明確なものとはなりえていないが、初年度としてはおおむね順調に進展してきているものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後もまた各研究者が引き続き各自の専門分野に基づいて本研究課題を実施していくと同時に、それぞれの知見を統合していくための作業を進めていく予定である。そのためにも、テレビ電話にて定期的に各研究課題の進捗状況を確認し合っていくとともに、共同調査を実施する予定であり、重要文献の読み合わせなども計画している。なお、2年目には各自が学会発表や論文執筆を通じて研究課題の成果を積極的に公開していくことが既に予定されている。3年目については、進捗状況に応じて再検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者である才田は、「ゾミア地域における自然資源を用いた経済的自律性の可能性の検証」を担当し、食用のみならず医療用にも用いられてきた植物性資源の分布状況、そして植物性資源の採集方法とその利用方法を生態学的・栄養学的観点から分析することに努めてきた。そのため植物性資源のサンプルを採取し、それらの栄養成分や薬用成分の分析を行う上で必要となる予算を計上したが、2018年度に得られたサンプル数が予定より若干少なく、その分の分析料が未使用となった。そこで次年度は、植物性資源のサンプルを多く採取して分析する予定であり、これに割り当てられた資金を用いる予定である。
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