研究課題/領域番号 |
18K11797
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研究機関 | 追手門学院大学 |
研究代表者 |
近藤 伸二 追手門学院大学, 経済学部, 教授 (40735023)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 台湾の民主化 / 移行期の正義 / 独裁体制打破 / 日台の絆 |
研究実績の概要 |
台湾の民主化の歴史に残る「自救宣言事件」の当事者である彭明敏氏に台湾で長時間インタビューし、詳細な内容を聞き取った。逮捕されて取り調べを受けた特務機関や24時間監視を受けた自宅、海外脱出する際に立ち寄った関連施設の跡を訪ね、それらの現状を確認した。蔡英文政権が進める「移行期の正義」政策についても、キーパーソンとなる「移行期の正義促進委員会」の黄煌雄・主任委員や葉菊蘭・総統府資政らに台湾でインタビューし、政権の意図や政策の意義、「自救宣言事件」の位置付けなどについて聞いた。「移行期の正義」政策に関する各種資料も収集した。 彭明敏氏の海外脱出に深く関わった日本人や在日台湾人関係者にも東京や山形県などでインタビューし、まだ公開されていない新事実も含め、詳しい状況を聞き出した。それらを裏付ける資料も入手した。台北駐日経済文化代表処(駐日大使館)の謝長廷代表(大使)にも東京でインタビューし、1996年の台湾初の直接総統選で、民進党の副総統候補として彭明敏とコンビを組んだ状況などについてヒアリングした。 この事件は極めてセンシティブであり、50年以上たった今も公開されていない部分がある。当事者にインタビューすることで、それらをかなりの程度明らかにすることができた。彭明敏氏は現在95歳、他の関係者もほとんどが80歳代半ばで、体が弱っている人も多く、ここでインタビューをしておかないと、恐らく今後実施するのは難しいだろうという、ぎりぎりのタイミングだった。 「自救宣言事件」は国民党の一党独裁に、公的機関や大組織ではなく、市井の人々が命を懸けて立ち向かって成し遂げた。その事件の詳細について調査し、記録に残すことは、世界各地で今日も続く独裁体制の打破を目指す民主化運動に大きな刺激と教訓を与える。また、事件には多くの日本人が協力しており、日台交流史に貴重な1ページを加えることになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「自救宣言事件」当事者の彭明敏氏に2回にわたって長時間インタビューしたほか、台湾と日本の関係者ら10人以上にインタビューして当時の状況を詳しく聞き、事件について多角的に分析・検証する足掛かりができた。事件から50年以上たっているが、インタビューで初めて明らかになった事実も少なくない。関連資料なども多数入手したり、撮影することができ、研究に厚みが加わった。 また、事件の現場となった施設や場所を視察し、台湾社会の移り変わりや台湾人の意識の変化などを確認することができた。蔡英文政権は国民党一党独裁時代の人権侵害について真相を究明する「移行期の正義」政策を進めており、今回訪れた施設は「不義遺跡」に指定して保存する方針を打ち出している。多くの現場を視察したことで、「移行期の正義」政策の意義を実感することができた。 台湾政府関係者や台湾の研究者にもヒアリングし、「移行期の正義」政策の意味や方向性を確認した。この政策は民進党支持者対国民党支持者によって社会を分断する危険性も秘めており、そうした課題についても話を聞くことができた。このように、1年目に実施しようと考えてた関係者へのインタビューはおおむね終えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
関係者のインタビューや資料を詳細に分析し、事実関係を確定していく作業を行っていく必要がある。何しろ「自救宣言事件」は半世紀以上前に起こった出来事なので、関係者のインタビューの内容に曖昧な点があったり、相互に矛盾している点もある。関係者の中には、回顧録を書いたり、資料を残している人もいるので、それらとの照合・確認も進めていく。2018年度は十分にはできなかったが、台湾政府や国民党の公文書などにもアプローチし、公的資料の収集・確認も行っていく。 また、この事件を蔡英文政権が進める「移行期の正義」政策の中で位置付けていくことを考えている。彭明敏氏以外の事件の当事者2人(1人は既に死去)には2018年暮れに事実上の無罪宣告が行われており、個別の事件として掘り下げていくとともに、国民党一党独裁時代の台湾で広範に行われた「白色テロ」の一部分としての意味付けもしていく。 ただ、台湾では2020年1月に総統選が行われるが、国民党が勝てば、「移行期の正義」政策そのものが破棄され、関連資料の発掘や接触が難しくなる可能性がある。その意味では、次の総統が就任する2020年5月までに資料収集などは終えておく必要がある。こうした作業を通じて、最終的に研究成果を単著にまとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「自救宣言事件」当事者の彭明敏氏への再度のインタビューや、関連資料の収集、「移行期の正義」を巡る政府関係者へのヒアリングなどのため、改めて台湾に出張する計画を立てている。2020年1月の台湾総統選は本研究テーマにも深く関わるので、現地で取材する予定だ。それらの結果に応じて、東京など国内出張も必要になる見通し。また、まだ入手していない書籍や資料の購入費も見込まれる。 また、3月の出張旅費を2019年度経費として支出することになったため。
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