2020年度までに、台湾の民主化に大きな役割を果たした「台湾人民自救運動宣言事件(自救宣言事件)」について、当事者である彭明敏・元台湾大学教授をはじめ、多くの関係者にインタビューし、詳細な内容を聞き取った。台湾の国家発展委員会档案管理局などで裏付けとなる公文書を入手し、それまで知られていなかった事実も発掘した。 最終年度の2021年度(新型コロナウイルス拡大によって3年間の研究期間を1年間延長)は、それまで3年間の研究成果を世に問う年度と位置づけ、5月に白水社から単行本『彭明敏 蒋介石と闘った台湾人』(283ページ)を出版した。同書については、毎日新聞、日本経済新聞をはじめ多くの新聞や雑誌、ネットメディアなどの書評欄で取り上げられた。また、同書の内容をもとに、学会発表や講演も多数行った。 研究対象であり、同書の主人公でもある彭明敏氏は2022年4月、98歳で死去した。本研究で聞き取りを行った関係者もすでに数人亡くなっている。彭明敏氏の長年の友人で、「役割分担」しながら台湾の民主化を進めてきた李登輝・元総統も2020年7月に死去している。その意味でも、本研究は当事者から直接ヒアリングができるぎりぎりのタイミングで行われたものであり、それによって歴史の中に埋もれてしまうところだった真実を掘り起こし、貴重な記録として残すことができたと考えている。
|