研究課題/領域番号 |
18K11802
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研究機関 | 特定非営利活動法人社会理論・動態研究所 |
研究代表者 |
朴 仁哲 特定非営利活動法人社会理論・動態研究所, 研究部, 研究員 (90752717)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 朝鮮人「満洲」移民 / 生活史 / 地域研究 / 東アジア / 記憶の場 / 語り部 / 世代 / 越境 |
研究実績の概要 |
新型コロナのため、中国と韓国でのフィールドワークができず、研究実施計画に沿った研究ができなかった。本研究は、キーワードを「東アジア」「記憶の場」「語り部」「世代」「越境」と定めている。研究成果を北海道大学における地域研究フォーラム(2020年7月15日)で、「複眼で東アジア地域を読む──越境する人と文化を通して」というテーマで報告した。本研究のデータは、朝鮮人「満洲」移民の生活史への聞き取りに基づく。現在、〈記憶〉の概念が人文社会科学において重視されているが、それには、フランスの歴史学者ピエール・ノラが率いるプロジェクト『記憶の場』が果たす役割が大きい。ノラは著書『記憶の場』のなかで、「記憶の場」とは、物質的なものであれ、非物質的なものであれ、重要な含意を帯びた実在であると書いている(ノラ『記憶の場』、2002年)。記憶の場は、「場」という語のもつ3つの意味―物質的な場、象徴的な場、そして機能としての場―から構成される。ノラは、3つの場が相互関連する例として「世代」を挙げている。本研究では、「記憶の場」である「世代」というフレームワークを用いて朝鮮人「満洲」移民体験者(以下、移民体験者)への追跡調査を行い、また移民体験者の子孫へのインタビュー調査も行っている。歴史社会学者の小熊英二の〈日本人〉の境界論に依れば、1945年までは、移民体験者は〈日本人〉であった(小熊英二『〈日本人〉の境界』新曜社、1998年)。本研究は、移民体験者の生活史を複眼的に考察するため、同時代を生きた日本人の戦前世代にもインタビュー調査を進めている。2020年には、移民体験者の子孫Zさんにインタビューを行ったほか、北海道在住で「満洲」生まれのTさんにもインタビューを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
3年目にあたる今年度は、研究実施計画に沿い、海外でのフィールドワークを行う予定であった。しかし、新型コロナの感染が拡大し、海外渡航がむずかしくなり、2020年8月と9月に予定した中国と韓国でのフィールドワークができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
朝鮮人「満洲」移民の研究は、戦争・植民地・移民をめぐる学際的な研究となる。ゆえに研究を深めるためには、学際的な知識と研究方法が必要になる。今年度は、次のような研究計画を立てて研究を進める。 第一に、引き続き、移民体験者へのインタビューを行う。移民体験者の生活史を多角的に分析するため、同時代を生きた日本人と中国人にもインタビューを行う。コロナが終息したら、中国と韓国でフィールドワークを行う。第二に、本研究は歴史社会学的研究である。課題を遂行するために、 ナラティヴ・アプローチを用いる。人類学者の小田博志は、歴史の傷を修復しようとする人々の営為を発見する方法として、ナラティヴ・アプ ローチの有効性について論じている(小田博志「エスノグラフィーとナラティヴ」野口裕二編『ナラティヴ・アプローチ』勁草書房、2009年)。本研究は戦後和解研究の一つであり、朝鮮人「満洲」移民のエスノグラフィーとしてもある。今年度は、その方法をレビューし、前へ進める。第三に、聞き取り調査において、20数人の移民体験者の子孫が日本に留学したことがあり、また現在留学していることが分かった。それは、インフォーマント全体の4人に1人に相当する。かつての植民地出身者の子孫が旧宗主国に還流するという移民研究は、東アジアにおいては、まだ萌芽的な研究に属する。今後の研究においては、戦争と植民地を体験していない移民体験者の子孫が、戦争問題と植民地問題をどうとらえているのか、また、戦争と植民地を体験していない日本の戦後世代が、戦争問題と植民地問題をどうとらえているのかについて聞き取りを進める。第四に、調査データの分析と論文執筆を行い、また研究会において研究報告を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、新型コロナのため、海外でのフィールドワークができなかったため、補助事業期間が1年間、延長することになった。コロナが終息したら、中国と韓国でフィールドワークを行う。
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