最終年度の令和5年度は、1930年代前半に中国共産党の農村革命根拠地の党軍内で発生した「反AB団闘争」「富田事変」などの粛清事件について党内の派閥抗争、地方主義といった観点から再検討を進めた。 また、党内粛清に象徴される中国共産党の「暴力」の諸現象を、建国後の反右派闘争や文化大革命、そして改革開放の今日へとつながる政治文化・政治風土の形成という視点から検証し、その起源と原理について考察した。 中心的な研究テーマである中国共産党体制の「族群と政治」に関しては、2024年2月、藤野彰編著『現代中国を知るための54章【第7版】』(明石書店、全350頁)を刊行し、同書第7章「中国共産党の伝統的な政治風土――組織原則と族群・派閥・地方主義の関係」(59-64頁)においてその歴史的背景と政治文化としての特性を具体的に詳述した。 6年間の研究期間全体を通しての主要な成果は、2022年1月に藤野彰著『客家と毛沢東革命――井岡山闘争に見る「民族」問題の政治学』(日本評論社、全518頁)を刊行したことである(紙媒体と同時に電子書籍版も発行)。同書では、客家問題を切り口として中国共産党が革命闘争期に根拠地のエスニック問題をどのように理解し、政策に反映させたか、それは後の党の民族理論にいかなる影響を及ぼしたかという歴史的、政治的経緯を実証的に解明できたと考える。 従来、文化人類学分野に偏っていた客家研究を、中国革命史・中国共産党史とリンクさせ、新たな視点で中国共産党政治の内実を明らかにした点に本書の学術的価値がある。同書については、研究者による書評で「『官方歴史学』の歪みを徹底した史料考証と緻密な分析により克服し、歴史の真実に迫ろうとする科学的姿勢」が評価された(『読売新聞』2022年4月3日読書欄、評者=国分良成・前防衛大学校長)。
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