急速な森林減少に直面するタンザニア連合共和国では、政府や援助ドナーが住民参加型の森林保全と植林に力を入れているものの、乾季に多発する野火と森林火災がその普及を阻害する大きな要因となっている。本研究では、「火」への対処に注目して同国の産業植林先進地域と後発地域を比較し林業の普及要件を検討することを当初計画としていた。しかし 2020年度以降、covid19の流行によって同国への調査渡航が困難となったことから、やむを得ず計画を変更し、タンザニアと日本における林業や樹木作物栽培・利用の比較をおこない、林業普及の過程で直面する諸課題に即して技術の適正化を促す社会組織や外部支援の在り方を検討した。 タンザニア連合国の植林・林業に関しては、2019年度までにある程度、現地でフィールドワークをおこないデータ収集をすすめていたンジョンベ県の事例と、データ収集に着手していたモンバ県の事例を用いた。我が国の林業や樹木作物栽培に関しては、北東北地域(津軽地域および南部地域)におけるリンゴ栽培と漆工芸およびその周辺産業(ウルシ栽培と漆樹液採取、木地の生産加工)、ならびに徳島県を中心とする四国地方の漆工芸や木布等の事例に注目して、フィールドワークおよび郷土資料・文献資料の収集・分析をおこなった。 これらの地域で林産資源の生産・加工が発展していった歴史的プロセスを比較し、条件不利地域でいかにして林業や樹木作物栽培が普及・産業化しうるのか検討した。その結果、知識や技術のイノベーションにおいて、住民組織(農民や伝統工芸職人)と外部の公的機関等(国際協力機関や公設試験研究機関等)の人的交流が大きな役割をはたしていた。一方で、知識や技術の共有・継承を担う住民組織は一枚岩ではなく、組織の分裂や世代間の断絶に注目した研究の深化が求められることもわかってきた。
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