研究課題/領域番号 |
18K11809
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
洪 郁如 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (00350281)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 台湾 / 戦争 / 世代 / 植民地 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、台湾人「少国民世代」の戦後史を、東アジアの政治変動の角度から考察し、その世代の特徴と地域史における重要性を提示することにある。「少国民世代」とは、日中戦争および第二次大戦中に小学生だった世代の台湾人であり、日本統治期の教育と戦争経験を原点に持ちながらも、戦後、中華民国国家の教育をも受けた世代である。台湾、米国、日本など多方面にわたって展開した彼らの進学と就職のライフ・コースについて、本研究は社会史の手法により解明を試みる。聞き取り調査を通じた対象世代のライフ・ヒストリーの構築により、当該世代の戦前日本の経験と戦後中華民国時期の経験の歴史的な意義を、とりわけ東アジアの冷戦体制における政治変動の視角から総合的に把握する。 2019年度の具体的な研究実績は、以下の通りである。第一に、聞き取り調査について、台湾人「少国民世代」に関するインタビューの実施とデータベース化を行った。日本統治期の学校教育を受けた1930年代生まれの台湾人世代は、その大学以上の進学先として、主にアメリカを選んでいた。そこで筆者は2019年春、アメリカ・カリフォルニア州在住の台湾人コミュニティに聞き取り調査の協力の可否について打診し、そのうえで2019年7月に南カリフォルニアを訪ね、台湾人「少国民世代」の複数のインフォーマントに対する聞き取りを行った。第二に、資料収集について、台湾人「少国民世代」に関する日本語、英語の私文書、回想録、写真などを収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年7月11-22日にかけ、アメリカの南カリフォルニアを中心に、台湾人「少国民世代」の戦後史に関する資料収集と聞き取り調査を実施した。 1.資料調査:(1) Irvine 市のTaiwanese American Archives(TAA)を訪問し、責任者の全面的な協力の下で、アメリカ在住の1930年代生まれの台湾人世代に関連する回想録、書簡、写真などの資料を閲覧した。また全米の台湾人コミュニティの状況、世代間の相違などについても聞き取り調査を行った。(2) Los AngelesのJapanese American National Museumなどを訪問し、戦前の日系人に関連する展示を通じて、米国の戦後社会における台湾系アメリカ人と日系アメリカ人が置かれた状況の類似性と相互の関連について理解を深めることができた。 2.聞き取り調査:南カリフォルニアのIrvine, Laguna Woods, San Diego各地を訪問し、約10組のインフォーマントを対象に聞き取り調査を実施した。事前に詳細な調査項目を送付したため、効率的にインタビューを行い、多くの音声データと写真を収集することができた。インタビューでは新たな人脈が発見され、次の聞き取りの機会が開かれたこともあった。同時に、限られた出張日数の中で、新たなインタビューを組み入れることが困難だったため、そうした何件かは断念せざるを得なかった。また、インフォーマントの中には、高齢のため、十分な聞き取りには至らなかったケースもあった。年配のインフォーマントを対象に複数回の聞き取りを行うには、滞在日数を増やす必要があると感じた。 帰国後の音声データを文字化する作業は、現在のところ8割程度完了している。不明確な情報についてはメールなどを通して相手に再確認し、また一部のインフォーマントから追加で写真などの提供を受けた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度においては、北米最大の台湾人コミュニティがあるカリフォルニア州を対象にさらなる聞き取り調査を行う予定である。第一に、サンフランシスコを中心に州の北部にて新たな聞き取り調査を展開する。第二に、2019年度に訪問したLaguna Woodsにおいて、時間的な制限で訪問が叶わなかったインフォーマントの訪問、また前回のインフォーマントの一部を対象として補足調査も実施する。 他方で、新型コロナウィルス感染被害が世界中に拡大する中、海外渡航自粛や米国の入国規制が続いており、現時点では、カリフォルニア州の現地調査の実施は極めて困難な状態にある。アメリカの現地調査が再開可能となるまで、以下の代替的な作業を用意している。第一に、2018~2019年度のハワイ及び南カリフォルニアで採集した聞き取りの音声データを文字化する作業を完了する。不十分な点については電子メールなどを利用し、インフォーマントに再確認する。第二に、2018~2019年度の聞き取り調査データを分析し、研究ノートや論文として発表する。第三に、サンフランシスコ地区のインフォーマントについて、事前調査の可能性について打診し、電子メールや電話を用いて可能な範囲内で実施する。第四に、米国、台湾、日本で出版された「少国民世代」台湾人の関連出版物を収集し、データ・ベース化と分析を行う。 新型コロナウィルス感染症が終息するのを待ち、速やかに海外調査を再開する。
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