「少国民世代」とは、日中戦争および第二次大戦中に小学生だった世代の台湾人であり、日本統治期の教育と戦争体験を原点にもちながら、戦後には中華民国国家の教育をも受けた世代である。台湾、米国、日本など多方面にわたって展開した彼らの進学と就職のライフ・コースについて、本課題は、台湾人「少国民世代」の戦後史を、東アジアの政治変動の角度から考察し、社会史研究の手法により、その世代の特徴と地域史における重要性を考察してきた。 研究期間中には、複数回の聞き取り調査により、対象世代のライフ・ヒストリーの構築を行った。当該世代の戦前の日本経験と中華民国時期の戦後経験の歴史的な意義を、とりわけ東アジアの冷戦体制における政治変動の視角から総合的に把握してきた。日本の植民地教育を受けた1930年代生まれの台湾人のなかで、大学以上の高学歴の保有者を対象として、その進学、就職先を追跡しながら、台湾・米国・日本に跨る現地調査を実施すると同時に、台湾語、日本語、中国語、英語が混在する複雑なインタビュー記録のテープおこしとデータベース化作業を行った。戦後初期の米華、日華関係を把握しながら中華民国政府の高等教育政策、留学政策、統計資料、新聞・雑誌記事などを収集し、制度面からの考察も行った。帝国日本からの離脱、中華民国政府への編入という急激な環境の変化で、青少年が被った影響に関する記録も丁寧に採集した。 最終年度には、聞き取り調査の成果を、中国語、日本語、英語で書かれた私家版、手稿などの回想録、政府資料とつき合わせる作業を行った。その成果は、当該世代の社会史的特徴にフォーカスした論文の形で発表された。さらに本課題を通して得た知見につき、台湾の歴史研究者とも意見交換を行った。これにより、本課題が析出した「少国民世代」の視点は、台、日、米の戦後美術、経済、水利史などの領域における個人史に対しても有益である点を確認できた。
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