研究課題/領域番号 |
18K11810
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
山崎 圭一 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (10282948)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 労働者党 / ブラジル / 公共政策 / ボルソナロ政権 |
研究実績の概要 |
2018年度については、以下の研究成果を社会的に公表した。「ブラジル労働者党政権14年間の評価と今後の展望」と題する研究報告を、3月17日(日曜日)(2018年度内)に、フルペーパーをそえて、基礎経済科学研究所主催による「2019年春季研究交流集会」(開催会場:横浜国立大学経済学部講義棟)でおこなった。 本科学研究費の研究テーマはブラジルの住宅政策であるが、とくに2000年以降の状況を念頭においている。その時期ブラジルの政府は、労働者党(PT)政権(中道・左派政権)であり、それは2016年の8月末まで約14年間続いた。その労働者党政権の政策の特徴を概観した。労働者党政権では、第1にボルサ・ファミリアという世界最大規模の条件付き現金給付政策を展開し、社会福祉に一定の力を注いだ。第2に農地改革を漸進的に進めた。第3に労働省内に連帯経済局を創設して、協同組合など社会的企業を促進した。第4に環境保全については、マリア・ダ・シルヴァという環境保全の活動家を大臣に任命して、アマゾン森林消失の速度を遅くするなど、一定の成果を上げた。しかしながら、こうした政策で力を使い果たした面があり、公共住宅の充実は限定的であった。 次に今後の展望であるが、2019年から労働者党から右派といわれるボルソナル政権へ急展開し、政策の方向性がおおきく変化した。その背景も今回の報告で考察したが、労働者党の下野については、2つの要因が重複している。1つは右派勢力の成長で、もう1つは労働者党への国民の支持の低下である。ことに社会政策の不十分性への不満がある。 以上のように、労働者党政権時の特徴と、下野の事情という大きな文脈をふまえて、金融包摂の促進による住宅政策のあり方を展望する必要がある。なお報告したフルペーパーをもとにした論文は、現在作成中であり、近く『経済科学通信』に掲載される予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度の国政選挙では、予想されていなかった事態が生じた。すなわち、選挙中の数多くの不適切な発言(セクハラ発言など)で人気が低迷し、当選の可能性が必ずしも高くないと当初目されていた右派政治家が、対抗馬の弱さもあってその後可能性が高め、結果的に大統領に当選した。政策の方向性がおおきく変化したのである。たとえば労働省が廃止されるなど、劇的な変化が生じている。新政権下での大きな変化の情報を集める作業があらたに生じたため、「計画以上の進展」とはいかなくなったが、2000年以降のブラジルの政策の特徴を明らかにする作業は、参照すべき欧米の研究もおおく出始めたこともあって、おおむね順調に進んでいる。 2018年度内の出版にはいたらなかったが、本研究に関連するアウトプットとして、図書の1部として2章分の論考(2019年5月中に刊行、出版社は有斐閣)、英文国際ジャーナルに投稿・査読中の共著論文が1本ある。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年以降は、世界的な研究動向をふまえての金融包摂についての研究と、住宅政策そのものの研究を進める予定である。また2019年8月頃にブラジリア大学の研究者等と連携して、現地調査をする予定である。世界的研究動向については、世界銀行よりFinancing Cities (G.E. Peterson and P.C.Annez編)やEmerging Issues in Financial Development: Lessons from Latin America (T.Didier and S.L.Schmukler編)がでており、金融包摂の状況や課題が明らかになってきている。 前者では、ブラジルでの開発金融をになう公的金融機関CEF(Caixa Economica Federal、連邦貯蓄銀行)の副頭取Aser Cortines氏が1章分を共著の形で書いている。それは下水道・下水処理(公衆衛生)インフラのファイナンスが、1990年以降十分進まなかった事情を明らかにしている。ブラジルの下水関係インフラの公共投資には、GDPの約0.9%の規模の財源が必要であるが、現場では0.25%程度しか投資が実現していない。この差をうめる新しいファイナンス法が模索されており、PPP を検討していることがあきらかにされている。 住宅政策は都市整備、都市政策の一環であり、ブラジルにおける都市整備の研究動向を住宅研究に統合する形で、研究を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度(2018年度、本研究の初年度)は、ブラジルでの現地調査が実施できなかったため、旅費が大幅に未使用となった。現地調査ができなかった理由の1つは、本研究の現地パートナーであるブラジリア大学経済学部M.ブガリン教授のスケジュールが、ご本人のやむを得ない事情により多忙化し、現地での合流日程が確定できなかったことが第1である。第2の理由は、拙宅(マンション8階)の階上(9階)より大量漏水の被害が2018年10月に生じ、自宅に床上浸水を含めた大規模な被害が生じた。被災からの復興工事(数ヶ月を要した)のため、自宅での研究作業は概ね順調に推進できたが、日本を離れることができなくなったという事情による。工事は2019年4月上旬に完了し、2019年度は渡航が可能である。具体的には8月に現地調査を実施する方向で、ブガリン教授と日程の打ち合わせをしているところである。
|