研究課題/領域番号 |
18K11810
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
山崎 圭一 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (10282948)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ブラジル / 住宅政策 / 金融包摂 / 住宅金融 / マス・ハウジング / ソーシャル・ハウジング / 左派政権 |
研究実績の概要 |
2019年度については、以下の研究成果を社会的に公表した。主要業績について、最新成果から順に記す。①2020年2月「ブラジル労働者党政権14年間の評価と今後の展望」『経済科学通信』(基礎経済研究所, No.150)。②同年1月「ブラジルのボルソナロ政権と社会の様相」『経済』(1月号、No.292)。③2019 年12月 "Humanitarian co-production in local government: the case of natural disaster volunteering in Japan" in Local Government Studies (First author: Brian Dollery、co-author: Yukio Kinoshita)(査読付き論文)。このうち③については日本についての行政と市民の協働事業に関する実証研究であるが、本研究のテーマとは間接的に関連する。ブラジルの住宅政策とくに今回焦点をあてるマス・ハウジングの大部分が市民参加型の協働事業である。これは住宅金融プログラムでも、財政プログラムでも、同様である。そこで住宅政策を評価する場合に、協働事業としての性格をふまえる必要がある。日本の協働事業の現況の把握は、国際比較の視点でブラジルの協働事業を評価するための土台となる。 本研究では、労働者党政権全体の実績の評価が問題になる。2016年8月末に同政権は下野した。当初は左派政権の政策が失敗し、国民の批判が高じて政権が終焉したと一般には報じられた。しかし2019年度の研究では、右派による「クーデータ」という性格付けにつながる情報が増え、米国政府の何らかの関与を示す情報もある。この点の確認も、2019年度の研究の成果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度の国政選挙では、極右とされるボルソナロ政権が誕生し、従来の政策がおおきく転換した。新政権下での大きな変化の情報を集める作業があらたに生じた。その作業は進展し、当初想定した以上に右派からの政治的圧力が強く働いた結果の政権交替(労働者政権の下野)であることが明らかになってきた。すなわち労働者党政権(左派政権)の政策の失敗が下野の主因ではなく、「クーデター」ともいえるような右派からの政治的工作が認められる。とくに労働者政権の打倒に重要な役割を果たしたセルジオ・モロ元判事が、米国政府と通じていたことが、明らかになりつつある。このことは、2000年代の住宅政策を評価する上でも重要な視点である。すなわち、住宅政策の失敗が労働者党政権批判につながったというよりも、最初から政権転覆を目的とした批判が展開されていた可能性が高くなってきた。なお住宅金融政策の調査そのものは、文献のサーベイと、ブラジル政府統計の収集(インターネットより)が中心となっており、新型コロナウイルスの問題もあって、現地調査が遅れているが、総合的には、おおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年以降は、世界的な研究動向をふまえてのブラジルの金融包摂についての研究と、住宅政策そのものの研究を進める予定である。2020年は8月頃にブラジルへ渡航し現地調査をする予定であったが、新型コロナウイルスの感染状況が非常に悪化している。同年6月時点で、米国ジョンズ・ホプキンス大学の集計によれば、感染者数が85万人をこえており、世界第2位である。そこで渡航は延期せざるをえない。他方Zoomなどによる現地取材の可能性を、現地の研究パートナーと連携しつつ、模索する。研究パートナーとしては、INSPERのMonica Pinhanez教授およびUnB(ブラジリア大学)のMaurcio Bugarin教授を想定している。Pinhanez教授とは大学院および学部の講義を遠隔授業技術をつかって共同で実施するなど、この間連携を深めており、研究の専門は住宅政策で、私と共通している。Bugarin 教授とも遠隔授業技術をつかった研究会で議論するなど、関係を深めている。また、文献サーベイについては、引き続き進める。Housing Policy in Latin American Cities (edited by Peter M. Ward, et al, Routledge, 2015)、Neoliberal Housing Policy (by Keith Jacobs, Routledge, 2019)、Political Economy of Housing Financialization (by Gregory W. Fuller, Agenda Publishing, 2019)など次々に関連の図書が刊行されており、最後の本は住宅政策の金融化の問題点を解明した業績である。
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次年度使用額が生じた理由 |
住宅金融関係の最新書の購入作業が、年度末の3月中に完了せず、数日の遅れのため4月初旬の発注となった。これは 約75,000円分である。残りの約75,000円については、2020年1月~3月期の調査研究活動が新型コロナウイルス感染防止対応(外出自粛など)で十分に展開できなかったことによる。そのため次年度使用額が生じてしまったが、すでに図書については現物が到着し始めており、執行されつつある状態である。残りの部分と、翌年度分については、旅費については日本国内での情報収集活動を中心に支出する予定である。ブラジル渡航については、残念ながら現在世界第二位の感染者数の状況であり、また外出自粛に強く反対し、経済活動を最優先するという考え方が連邦政府によって採用されているため、さらなる感染拡大が予想される。このため、2020年度のブラジル渡航は断念せざるを得ない。物品、人件費、謝金等への配分を増やして、予算執行をすすめ、研究を推進する計画である。
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