研究課題/領域番号 |
18K11810
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
山崎 圭一 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (10282948)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 住宅政策 / ソーシャル・ハウジング / 住宅金融 / 金融包摂 / 貧困対策 / 福祉国家 |
研究実績の概要 |
本研究「ブラジルの不良住宅増加要因の分析と金融包摂の視点による解決の展望」で焦点をあてるソーシャル・ハウジングは、政治の影響を敏感にうける分野である。ソーシャル・ハウジングとは低所得者・貧困者むけの公共住宅のことである。連邦政府や地方自治体に住宅問題を解決する意欲がどの程度があるかを確認する必要があるが、ブラジル政府の意欲は低位だといえる。この国は2003年~16年間は労働者党の大統領が政治を担う、いわゆる「左派・中道政権」であったが、新自由主義の傾向を離脱しなかった。福祉政策は、条件付き現金給付に傾斜し、それ以外の政策は乏しかった。ブラジルを含めた中南米では、貧困問題を重視する政権が成立したときに、米国からその変更を求める圧力を受けることが多い(CIA等による転覆工作を含める)。1960年代に左派政権が成立した際、64年にそれは軍事クーデターで転覆されたが、背後に米国の介入があったことが近年歴史研究で証明され、経緯は映画化された(『21年間続いた1日』2004年)。類似の介入が2016年の左派政権の終焉に関してなされたとの指摘もある(その証明は今後の課題)。ブラジルの政策分析では国際圧力を無視できない。2020年度はベネズエラにかかる国際圧力とブラジルへのそれを比較する考察をおこない、2021年3月に本の1つの章の形で刊行した(後述)。同年度はパンデミックの影響で現地調査が不可能だったため、住宅政策を間接的に左右する国際圧力についての考察を深めた。敷衍すると、国際圧力→政治を左右→政権の方向性を左右→福祉政策を削減→不良住宅問題解決への意欲低下→スラム問題の持続、という連鎖が認められる。 この国の住宅政策は住民参加型が多く、いわゆるco-production型である。関連の英文論文を共著で1本刊行し、また2020年11月実施の統一地方選の解説記事を業界誌に発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初現地に渡航し、連邦政府、州政府、市町村政府などの政策担当者への取材や、公的住宅建設事業の現場の視察といった現地調査を実施する予定であった。ブラジルの住宅政策の特徴として、州や市のCOHABという住宅公社がになうという点があるが、資金不足から多様な原資をあつめて組み合わせている。その複雑性の理解には現地取材が必要である。現地取材を重ねても100%解明できない不透明性があることは前提である。また本研究の重要論点である家計の負債増大の余力(さらにどれだけ住宅購入資金を借り入れることができるか)に関する情報も、現地取材が必要である。しかしブラジルはCOVID-19の感染について、現在世界第3位というきわめて深刻な状況にあり、渡航を断念せざるをえなかった。このため、研究はやや遅れている。他方、関連文献(ポルトガル語、英語)を収集し、読み進めることができており、また統計サイトからデータをダウンロードすることはできているので、一定の進捗は達成した。
|
今後の研究の推進方策 |
この1年間の経験で、オンライン(Zoomの会議など)で関係者に取材する手法を学びつつある。これを応用して、ブラジル現地の住宅関係者にオンライン取材を申込み、できるだけ現地渡航に代替する形での情報収集を進めることにする。COVID-19の感染状況は変異種が猛威をふるっており、とくに21年4月に爆発的に拡大した。2021年度も渡航が可能になるとは期待できないため、代替の現地取材方法を模索する。また文献やインターネットでダウンロード可能なデータの収集は、引き続き進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ブラジル現地へ渡航して調査や取材をおこなう予定であったが、新型コロナウイルスの感染が深刻化し、世界で3番目に感染者数が多いという状況に陥った。このため渡航を断念さぜるを得なかった。また日本国内についても、人との接触をできるだけさけるという点で、旅費や謝金が生じるような活動を実施することを控えた。そのため国内旅費も謝金も支出がゼロとなった。次年度(2021年度)については、感染状況をみながら、もしも収束すれば、現地渡航を実施して、調査、取材を敢行する予定であるが、ブラジル型変異株もでており、現時点ではブラジル国内で厳しい状況が続いている。
|