2023年9月にブラジルへ現地調査におもむき、連邦政府都市省住宅局、ブラジリア都市整備住宅供給公社(CODHAB)、サンパウロ大学法学部住宅研究チームなどを訪問し、取材した。その成果は、「新ルラ政権下の住宅金融政策の現状と課題」として、ラテン・アメリカ政経学会2023年全国大会の「自由論題セッション1:ブラジルの産業・経済・政策」(11月25日 開催校:東洋大学)において発表した。提出したフルペーパーは学会ポータルサイトにいて一般公開されている:https://sites.google.com/view/jsla2023 今回の調査で明らかになったことは、第1に、ブラジルでは公営(連邦、州、市町村による)賃貸住宅供給の政策がないことである。そのため、公営の賃貸住宅は存在していない。見た目は、そのようにみえる公営の集合住宅団地は各都市の随所にあるが、すべて分譲住宅である。この公営賃貸住宅の欠如が、ブラジルの住宅政策の最大の欠陥であり、ファヴェーラといった貧困地区が解消しない最大の要因であることを、確認した。第2に、おもな政策は公的な住宅ローンによる持ち家購入の促進であるが、その場合も、住宅価額の一部を補助金で支援していることが判明した。第3に、公的な分譲住宅団地の1つを視察した。ブラジリアにある事業で、9000戸近い規模で、日本最大の公営団地(日本の場合はほとんど賃貸住宅)と同様の規模である。第4に、公営賃貸住宅の欠如を問題だとみる研究者もいて、実際に行政側でも、その提供を模索する動きがあることが判明した。具体的には災害時に限定されるが、公営の賃貸住宅を災害被害者に提供する「locacao socialという事業があり、その期限を延長して恒久化する取組みが、サンパウロ市で開始している。このように住宅政策の欠陥が認識され始めているが、取組みの規模は小さいという段階である。
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