研究課題/領域番号 |
18K11822
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古矢 旬 東京大学, 大学院総合文化研究科, 名誉教授 (90091488)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 熟議民主主義 / ポピュリズム / 反知性主義 / ドナルド・トランプ / 『ザ・フェデラリスト』 / 権威主義 / オルト・ライト / 人種差別 |
研究実績の概要 |
昨年度も、一昨年度と同様、新型コロナウィルスの世界的流行により、本研究の目指したアメリカ大統領選挙の現地視察は中止を余儀なくされた。その結果、選挙戦中に政党全国大会、各政党支持者の投票勧奨方法、州・地方レベルの中小規模の政治集会を舞台とする政治討論の実態等については、十分な調査ができなかった。 ただし、その間、マスメディアやネット情報の探査に集中することによって、このパンデミック下、アメリカ政治のみならず国際政治でも、非妥協的な党派的言論や権威主義的な政治的言論が跋扈し、国内政治の分裂が深刻化するとともに、各国の政治経済体制の差異に起因する国家間の緊張がいちじるしく高まる現代的傾向の分析を進めることができた。過去二年間、本研究が開始された当初に見られた、世界的な民主化への期待は大きく減退したといえよう。 とりわけアメリカにおいては、2020年選挙をめぐる混乱が、暴力的紛争へと発展する兆しが見え、本年11月の中間選挙を前に二大政党間の、また人種間対立の様相をも含む、左右の政治的イデオロギー間の対立が危機的水準に達しつつある。この危機的状況を踏まえ、本研究は昨年度、アメリカ民主政における暴力とことばの相克の歴史をめぐる文献研究に注力した。それによって、アメリカ史上、建国期、1830年代、1920年代、1970年代が現在と類似性の高い、暴力化の瀬戸際にある非和解的言論対立の時代として特定できた。いずれの時代も、『ザ・フェデラリスト』が想定した熟議に立脚した民主、共和主義が危機を迎えた時代であった。本年は、やや遅れている『ザ・フェデラリスト』翻訳の完成を目指すとともに、これら過去にアメリカ国家体制の根幹的原則であった熟議デモクラシーが直面した危機が、いかに克服されてきたのかをさらに検討する予定である。それによって、いわば危機の中間選挙後のアメリカ政治の行く末を照らし出したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルスの流行により、2020年アメリカ大統領選挙後のバイデン政権下の政党間対立の現地観察研究は断念せざるをえなかった。また、当初内外の研究者との共同研究も予定していたが、対面研究会の実施も見送りを余儀なくされた。 しかしながら、反面メディア、ネット情報の研究、および文献研究には多くの時間を割くことができた。おそらくパンデミックの影響もあったであろうが、この間の内外の関連研究は、原資料とじっくりと取り組んだ業績が多く、本研究の進展にも多大の助けとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本年は、二年延長後の最終年度に当たるが、一つにはこれまでの文献研究の成果として、「アメリカ・デモクラシーの歴史像」を論文としてまとめる。また、『ザ・フェデラリスト』の全訳を完成させる。これらの歴史的研究と並行して、現在の政党対立を中心とするアメリカの政治的言論の現状分析を行う。そのために可能であれば、11月の中間選挙の現地視察を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究課題の現地視察のために海外旅行、国内研究会への出席を予定していたが、いずれも新型コロナウィルスの流行のため取り止めざるを得なかったため。本年度は、流行も下火になることが予想されるので、現地調査と研究会出席を予定している。
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