研究課題/領域番号 |
18K11824
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
宮本 万里 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (60570984)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 仏教ナショナリズム / 動物愛護 / 放生 / ヒンドゥーナショナリズム / 聖牛保護 / ブータン / 北東インド / 自然崇拝 |
研究実績の概要 |
2022年度は海外渡航調査が可能となり、調査対象地域としたインドおよびブータンの各政府も外国人の入国を漸進的に認めたため、同年9月および2023年2月にブータンへの渡航調査を実現し、2023年3月にはインド北東部のアッサム州とアルナーチャル・プラデシュ州へ入り村落調査を実施することができた。調査では、各地域における牛や羊の屠畜規制とその背景を、各地の仏教ナショナリズムおよびヒンドゥーナショナリズムの拡大およびそれに伴う土着の自然神崇拝や動物供儀への抑圧という観点から明らかにしようと試みた。 成果発表に関しては、2022年5月に開催された政治思想学会研究大会のシンポジウムで招待講演を行い、6月には「宗教と社会」学会学術大会の開催校パネルにおいて招待発表を行った。それぞれの学会で、ブータンおよびヒマラヤ地域における仏教信仰の広がりと環境保護や動物愛護の動きとの関連について多面的に考察し、他地域や他分野の研究者と実りの多い意見交換を行った。また、国外では海外調査先のインドでは、デリー郊外にあるシブ・ナダル大学のヒマラヤ研究所のセミナーに招聘され研究発表を実施し、当該大学の研究者および院生との意見交換を行った。セミナーでは、近年のブータンやヒマラヤ地域で生起している、仏教教団による屠畜忌避活動と土着の自然新崇拝や儀礼の縮小や簡易化あるいは衰退に関して、分析や考察を共有した。また、本研究課題に関連して、ブータンの自然国立公園政策の村落における人獣関係の変容に関する論文を1本執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究はインドおよびブータンでの現地フィールド・ワークを主な研究手法としていたが、COVID-19のパンデミックにより2020年から2022年夏まで海外渡航の制限およびインドとブータン各政府による入国制限があったため、新規の情報収集が実施できず、研究課題の進捗全体に遅れが出た。2022年夏よりブータンの牧畜社会での現地調査を再開し、2023年春にはインド北東部で動物供儀に関する調査を再開できたことで、現地情報の収集が進んでいるものの、当初の計画に照らして十分とは言い難く、追加の現地調査が必要な状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍による海外渡航調査の中断を受けて研究の進捗に遅れが出たため、計画期間の延長を申請し認められた。そのため、2023年度は繰越した研究費を活用してインド北東部での追加的な現地調査を実施し、それらの調査データを踏まえて最終的な成果発表を行う予定である。 2022年度までのブータン調査では、仏教団体および市民団体の主導により、牧畜社会における山岳信仰の無血化つまり動物供儀の廃止や、それらの儀礼の仏教儀礼への置き換えが進められていることが明らかとなったが、国境を挟んだインドのアルナーチャル・プラデーシュ州ではモンパの民族団体が主導となり、儀礼の無血化と呪術師の保護が同時に推進されていることが明らかとなったため、今後の調査ではこれらの傾向に対する亜大陸の聖牛保護運動の影響をさらに多角的に分析する予定である。これらを踏まえた最終年度の成果は、社会人類学系の学術雑誌への論文投稿と、エコロジーに関わる論文集への寄稿をとおして発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による海外渡航規制により、2020年から2022年夏までの間に計画していた海外渡航調査が延期となったため、予定していた海外渡航費が計画通り使用できずに2年間以上繰越したことで次年度使用額が生じた。研究計画を延長して2023年度に再度インドとブータンでの海外渡航調査を実施する予定であるため、次年度使用額は海外渡航・滞在費および図書などの資料購入費として使用する予定である。
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