研究課題/領域番号 |
18K11829
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
横川 和穂 神奈川大学, 経済学部, 准教授 (10537286)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ロシア / 地方財政 / 地方公共サービス / 地域間格差 / 中央集権化 / 市民社会 |
研究実績の概要 |
本研究は、ロシアで社会主義時代には無償で国民に保障されていた教育や医療のような公共サービスが市場経済化でいかに再編されているのかを、財政的側面から明らかにしようとするものである。そのため、これらの社会的サービスの供給を担っている地方財政について、①政府間財政関係の改革(税源配分、支出区分等)が地域間財政格差や地方財政構造に与える影響、②政府間財政移転の地方への配分のあり方とその効果、③義務教育等の公共サービスの水準の変化について、制度と実態の両面から明らかにすることを目指している。 2年目の研究ではまず、昨年度から進めていた研究をもとにした論文“Regional Public Service Provision and Civil Society in Russia”の執筆を行った。同論文では、プーチン政権下で進められてきた政治的・財政的な中央集権化が、再分配の拡大によって地域間財政格差の縮小や地方公共サービス水準の向上につながってきたのかどうか、ひいては社会的な統合の強化をもたらしてきたのかどうかについて分析を行った。結論としては、中央集権化が期待されたほどの再分配の強化にはつながっていないことを示した。この論文はThe Journal of Comparative Economic Studiesに掲載されることが決定している。また、この論文の邦訳版はすでに神奈川大学『商経論叢』に掲載されている。また、10月にはこの研究を元にロシアのサンクトペテルブルグ大学で行われた国際カンファレンスで発表を行った。 さらに、本研究とも関わってロシアの国家財政の特質に関する論稿を現在執筆中で、ロシアの地方財政をより大きな国家財政、ロシア経済全体の中で位置づけている。教育や医療などは他の経費と比べ比較的削減されやすく、諸外国と比べるとかなり低水準にとどまっていることが明らかになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度に代表を務めた京都大学経済研究所のプロジェクト研究「ポスト移行諸国における国家と市民社会に関する国際比較研究」の研究成果をまとめ、刊行する作業にかなりの時間を割かれ、本研究に割くエフォートが低下し、進捗状況にやや遅れが生じてしまった。ただ、このプロジェクトの成果をまとめる作業を通して、ロシアにおける国家と市民社会の関係について、研究動向のサーベイを含め、学ぶことができた。地方財政に焦点を当てる本研究にとっても、若干遠回りではあったが、より大きな視点から研究対象をとらえ直す機会となり、有益であったと考えている。この成果は専門誌において特集として発表されることになっている。 さらに2年目の本年は、以前から参加していた別の共同研究プロジェクトにおいても、研究成果の取りまとめにかかる必要があった。この共同研究プロジェクトはロシア経済における「国家主導性」に焦点を当てたものであるが、私自身はロシアの国家財政が経済において果たす役割とそれを他国と比較した場合の特徴、また財政の領域においてロシア政府の国家主導性がいかに発揮されているのかについて分析を行った。この研究では直接地方財政について取り上げたわけではないが、ロシア財政全体の性格やその中での地方財政の位置づけを見直すことにつながり、重要な視点を得ることができた。この成果は2020年度末に書籍として出版される予定である。 このように、本年は本研究以外に関わってきたプロジェクトに割く時間が多くなり、本研究で掲げた研究計画の遂行においては遅れが出てしまった。また、私は本研究の遂行上必要なデータ分析の手法を身に着けておらず、2019年度に少し時間をかけてその学習を行ったことも、研究の遂行遅らせてしまう原因となった。ただ、それぞれの研究成果は互いに補強し合うものであり、本研究の進展にも間接的にはプラスになっていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度となる2020年度においては、遅れが出ている課題①政府間財政関係の改革(税源配分、支出区分等)が地域間財政格差や地方財政構造に与える影響、②政府間財政移転の地方への配分のあり方とその効果について、分析を進めたい。2000年代のロシアで進んだ中央集権化の過程で進められた政府間の税源配分の改革が、各地域の税収にどのような影響を及ぼしたのか、また連邦から地方への財政移転による格差是正効果はいかなるものであったのか、ロシアにおける地方への財政移転がどのような性格を持つものであるのか、制度とデータの面から分析を進めていきたい。また、昨今の新型コロナウィルス感染の拡大で海外渡航が難しくなっている中ではあるが、状況が落ち着いた段階でロシアでの現地調査を行い、専門家への聞き取りや資料収集を行う予定である。 2020年度は私が関わっている他のプロジェクトの一環として、論稿をまとめる予定がいくつかあるが、これらは本研究とも部分的に関連している。本研究を早急に進め、その成果の一部をこれらの論稿の中に組み込んでいきたいと考えている。具体的には、1つは上で述べたロシア経済の「国家主導性」に焦点を当てた出版プロジェクト、もう1つは「現代ロシア経済論」の教科書執筆プロジェクトである。「現代ロシア経済論」の中では財政の章を担当する予定で、国家財政の全体的な部分についてはすでにだいたいの内容を書き終えているものの、本研究の対象である地方財政、および中央・地方の財政関係については今後執筆を進める予定で、本研究の成果も取り込んでいくつもりである。 これらの作業も踏まえ、本研究の締めくくりとしての成果を独立した論文にまとめ、学会等で発表していく予定である。
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