最終年度の成果:サウジアラビアとアラブ首長国連邦に渡航し、両国から周辺アラブ諸国への資金移動がどのように行われているかについて調査を行った。送金業務を行う両替商や送金業者、投資促進機関でのインタビューなどを行い、コロナ禍とロシア・ウクライナ戦争が海外資金移動にどのような影響を与えているかについて調査した。コロナ禍とロシア・ウクライナ戦争による湾岸諸国経済への影響は、労働者政策にも大きな影響を与えた。大幅な景気後退に伴い多くの外国人労働者が帰国を余儀なくされた。サウジアラビアでは、2018年のフィリピン人家事労働者に対する虐待問題が起きて以降、フィリピンからの労働者派遣が制限されていた。コロナ禍においてもフィリピン人労働者に限らず、南アジアやアフリカ系労働者が帰国を余儀なくされたが、景気回復に伴って外国人労働者が湾岸諸国に戻りつつある。
研究期間全体の成果:収集した情報とデータに基づいて、国際資金移動を通じたGCC諸国市場と関係国市場間の連動性について検討を行った。具体的には、VARモデルによる株価の連動性についての分析を行い、以下の結果を得ることが出来た。第一に、労働者送金受入国(アジア諸国)よりも直接投資受入国(中東北アフリカ諸国)の方がより、GCC諸国株式市場を通じた影響を受けやすいことが分かった。直接投資の受入国であるエジプト・ヨルダン・モロッコでは、アブダビやカタル・クウェート・サウジアラビアの市場の影響を受けていたが、労働者送金を受け入れているフィリピンではGCC市場の影響を認めることが出来なかった。 第二に、株価の連動性の程度は、必ずしも労働者送金や直接投資の金額の規模と相関がないことが分かった。GCC諸国においてサウジアラビアとUAEは、多くの労働者送金と直接投資を海外市場に供給しているが、資金受入国においてこの2国の株式市場の影響が大きいとは言えない。
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