研究課題/領域番号 |
18K11836
|
研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
野嶋 洋子 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 外来研究員 (50586344)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 無形文化遺産 / 自然災害 / 火山災害 / バヌアツ |
研究実績の概要 |
2019年度は、2017-8年の火山噴火により全島民が他島に避難したアンバエ島住民を対象とし、被災と避難、そして帰島または移住というプロセスにおける文化的実践の変化について、現地での聞き取り調査を実施した。 2017-8年のアンバエ島火山噴火の際、バヌアツ政府は約11,000人の全島民に対して近隣の島々への避難を命じ、約6割がサント島の都市ルガンヴィル近郊、約4割がアンバエ島の東にあるマエウォ島へと避難した。2019年に噴火活動が沈静化すると島民の多くは帰島したが、移住先に留まり「第二の我が家」を築く住民もいた。調査では、アンバエ島西部からサントに移住したコミュニティ、帰島したコミュニティ(東部および北東部)、マエウォ島に新たな集落を開く選択をしたコミュニティの3者について情報収集を行った。 アンバエ島民の主要な避難先となったルガンヴィルとマエウォ島では、状況が大きく異なる。前者はバヌアツ第二の都市であるのに対して、マエウォ島では共通性のある文化と既存の交流がありながらも、より伝統的な実践が継承されている。アンバエ島民の様々な無形文化の実践状況については、災害による環境へのダメージ、移住により必要な資源が入手困難となる(例えば編みゴザ作りのための特別なパンダナス)といった状況がある一方で、以前からの生活スタイルの変化により衰退傾向にあった。マエウォ島民の集落で避難生活を送ったアンバエ島民は、アンバエにおいては衰退した実践が生きている状況を目の当たりにし改めて関心を抱く、また日常とは異なる避難状況の時間を伝統的技術の習得に充てる、といった活動も見られた。これはアンバエ無形文化遺産の継承という視点からは、避難がポジティブに作用した事例と言える。また無形文化遺産の継承に大きく影響する要因としては、災害事象そのものよりも、災害により生じた集団間の接触・交流があると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は進行形で諸事情を考慮して見送ったアンバエ島火山噴火による避難者を対象とした情報収集を行うことができた。 昨年度から引き続きバヌアツ文化センターの協力を得、共同調査としてコミュニティでの聞き取りを行うことができ、また計画段階では難しいと思われていたアンバエ島を訪問しての調査も可能となった。 この2ヶ年で、火山噴火に関連する状況における無形文化遺産の変容・継承の実態について、バンクス諸島がウア島、アンバエ島の2つの事例を扱うことができ、避難状況が大きく影響を及ぼすことを確認した。また、比較研究を行うための基礎的情報が得られたことで、今後のデータ分析の可能性も広がった。 以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
事業最終年度となることから、これまでに情報収集を行ったガウア島災害事例、アンバエ島災害事例を中心に、分析作業を進める。それを踏まえ、補足的な情報収集を兼ね、調査地域における将来的な無形文化遺産保護の促進に繋がる方策についてワークショップを実施し、事業の総括としたい。 ただし、最終の現地調査に関しては、現在、コロナウィルス感染のリスクにより入国が制限されており、実施の見通しがつかず困難な状況が生じている。11月以降の実施を視野に、現地との調整を進めるが、今後の情勢を考慮した上で判断したい。
|