研究課題/領域番号 |
18K11838
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
津々見 崇 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 助教 (40323828)
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研究分担者 |
十代田 朗 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 准教授 (70226710)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 地域遺産活用 / 着地型観光 / エコミュージアム / エコツーリズム / 世界遺産登録運動 / 観光人材育成 / 奄美大島 / 石狩市 |
研究実績の概要 |
前年度の成果を踏まえ、地域遺産の「価値共有」の取組を長期間にわたって実施し、かつエコミュージアムや世界遺産登録運動など他の政策と連動しながら地域遺産の取組を展開してきた、鹿児島県奄美群島における「奄美遺産」に関する調査分析を、研究計画における枠組み【A,B,C】に沿って行った。その結果、【A】「集落遺産」「シマ学」等の活動により、集落ごとに地域資源の価値づけと保全・活用の方向性を検討し、また地区単位の観光プロジェクトにおいてそれらの観光活用策が実施されたこと、その際、集落住民の「畏れ、敬い、守り、伝え、残したいモノ」という価値基準が〔主観的・探究的〕価値に相当し、住民感情を尊重しつつ、真正性や経年性を〔客観的〕価値として担保するシステムを採用したことが分かった。また、【B】前述の地域資源発掘を主目的に含むエコミュージアム構想を公的に政策化し、歴史文化基本構想で奄美遺産を公的に位置付け、エコツーリズム等の着地型商品化や観光人材育成と連動させたこと、【C】1970年代以降の観光発展史の分析から、奄美群島のイメージは重層化し、かつ宿泊施設の種別・立地等も変化する中で、地域遺産が宿泊施設と一体的に観光魅力化している事例が発生していること、等が明らかとなった。これらの結果を用い、地域遺産の個人や集落にとってのヴァナキュラーな価値を尊重しつつ、かつ観光魅力として商品化する上での政策の複合的一体的運用に関する知見を取りまとめている。なお、前年度から継続の対象事例である「石狩遺産」については、地域遺産の「価値共有」に関する市民の意思決定プロセスに関する参与観察調査を遂行した。地域遺産の認定基準及び手法の確立期であるとの認識が、〔主観的・探究的〕〔客観的・学術的〕を問わず価値記述の精緻化を追求し、同時に地域内外へのインタープリターとしての自覚を生み、新たな活動設計へ至る萌芽が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2~3月に実施予定であった現地調査(奄美、北海道)が新型コロナウイルスの影響で実施できなくなり、年度タスクの2~3割が達成できなかったと感じている。代わりに文献資料を用いた分析を行う等、可能な研究作業を進めてはいるが、研究対象の現地での資料収集やインタビュー調査等を基盤的データとする本課題においては、進捗遅延の根本的な挽回にはなり得ない。 今後の対策としては、移動が可能となった時期に調査を遂行することと、研究方法の部分的変更が考えられる。後者についてはウェブ上の情報を活用すること等が想定されるが、研究の質が低下することが予想される。従って、本課題は2020年度が最終年度となっているため、研究活動解禁の時期と状況によっては、研究期間の延長を検討することが必要になってくる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、前年度までの未完了対象事例についての調査分析を早急に実施する。加えて、先行研究で「ア)主観的遺産探求型」に分類された地域のうち、歴史文化基本構想策定地域でありかつ観光振興に取組む岩手県遠野市の「遠野遺産」を対象に加え、前年度以前と同様の作業を行う。 その上で、最終年度であるため、研究の最終目標である【D.地域遺産の価値整理と観光魅力化に関する手法の体系化】を試みる。地域遺産を観光魅力として育成・活用する上での工夫、教育活動や特産品開発、地域コミュニティ形成等の観光以外の分野におけるまちづくりへの展開事例について、調査を行った地域間での比較分析を行い、〔主観的・探究的価値〕に基づく地域遺産の価値整理から観光魅力化に至る手法の体系化を行う。 以上に際し、「地域遺産の価値整理と観光魅力化」は観光客増加を念頭に置いた取組みであったのに対し、コロナウイルス後の世界における観光に対する意識の変化、観光行動の変容、及び住民の観光受容意識の変化等を踏まえた、地域遺産の新たな観光活用の可能性及び条件・課題についても考察を加えてゆきたい。 なお、新型コロナウイルスの影響により研究対象地域の現地調査や資料収集が不可能となることも想定されるため、その折はウェブ上の資料、在京の図書館資料等の分析にとどめ、研究期間の延長を検討する。なお、2年目の成果を取りまとめ、日本建築学会等で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2~3月に実施予定であった現地調査(奄美、北海道)が新型コロナウイルスの影響で実施できなくなり、その調査旅費等が残余額となった。これらの調査は次年度に遂行せざるを得ないので、次年度使用額として計上する。
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