今年度の成果として、成果の公表と今後につながる研究者ネットワーク構築を挙げることができる。研究代表者は7月に開催された観光学術学会において、地域国際芸術祭もしくは地域アートプロジェクトを研究対象とする社会学者、観光人類学者ら3名と、アートツーリズムをテーマとした分科会を実施した。セッションでは、地域国際芸術祭などで展示されるアート作品やそれに関する実践を「アート的なるもの」と仮定し、「観光的なるもの」との連関について議論した。また分科会前後に意見交換を重ねたほか、分科会登壇者以外の観光研究者も交えた先行研究の批評をおこない、本研究テーマを思考するための補助線の獲得につとめた。成果として論文も著した。 本研究の目的は、地域国際芸術祭をはじめとしたアートプロジェクトの現場に立ち現れる実践をツーリズムのひとつと捉え、民族誌的手法を用いた調査をおこなうことで、アートツーリズムの議論を拓くところにあった。この問いは抽象的である。そこで本研究では、研究代表者がこれまで調査拠点としてきたフィールドで展開される実践や、アート的なるものを介した人びとの交わりにフォーカスし、そこに立ち現れる現象を分析することでこの問いに取り組んだ。本調査研究では、アートツーリズムの特徴とこの議論を深化させるために注目すべき点が浮き彫りとなった。今後公表予定の論文があるためここで詳細に触れることは控えさせていただくが、今後注目すべき点のひとつに、(広義の)ツーリズムリテラシーがあると想定するに至った。研究代表者はこれを次なる研究課題と定め、すでに研究に着手している。これは観光現象や地域振興の根幹にかかわる議論につながると考えているところである。
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