小規模宿泊業の労働生産性を阻害する要因には、①オペレーション要因、②マネジメント要因、③集客要因、④需要要因、⑤資本要因、の5つが存在する。 最終年度においては、三重県鳥羽市でのオペレーションに関するフィールド調査等を実施した。とりわけ、新型コロナ感染症に伴う緊急融資等の申請にあたり、オペレーションをデジタル化していないことにより、データ収集に時間がかかる旅館業と、デジタル化していたのですぐに対応できた旅館業で受給時期に差が生じている現象が発生していたことから、小規模事業者側にも問題意識が芽生え、30社のインタビューが実施可能となった。その結果、勤務シフト等労務情報のデジタル化の有無と営業利益との間に正の相関がみられた。昨年度までの研究により、生産性向上の手法として、従業員の非正規化と勤務日時の細分化が最も採用されていたことからも、複雑な従業員管理がアナログで行われていることがオペレーション要因における最大の課題となっていることが明らかとなった。 また、生産性の阻害要因となっている変数のうち根源的なものが資本要因であり、小資本・過剰債務という資本構造から、所有と運営の分離等による資本の増強を行った事業者において生産性が改善されるというケースが見られ、生産性向上には、資本や保証制度のあり方を見直すことが重要であると考えられる。M&A等により資本増強されたケースの財務状況を調査を行ったところ、多くで正社員のマルチタスクと労務のデジタル化、平日稼働アップに向けたレベニューマネジメントが行われており、デジタル化の推進状況や経営者のスキルが小規模旅館業の生産性に大きな影響を与えていることが明らかになりつつある。
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