昨年度に引き続き、散策路事業の技術移転に関する研究に取り組んだ。本研究では、海外事例から生まれた散策路事業の日本への技術移転に関する現象に着目し、「フットパス」、「オルレ」、「クアオルト健康ウオーキング」の事例研究を行い、ステークホルダー間の関係や散策路事業の計画技術要素を比較検討し、以下の4つの示唆を得た。第一に、散策路の基礎となる道路環境整備に関する計画技術があること、第二に、技術移転の過程において、即座に完全な再現を目指すのではなく、段階的に技術を導入し、国や地域の社会状況や地域資源に適合させること、第三に、散策路事業を物理的な空間整備事業としてだけでなく、観光・レクリエーション事業として展開することが重要であること、第四に、海外の規範事例と国内組織との継続的な関係が不可欠であることである。 また、海外事例研究も実施し、アジアの大都市(ソウル、台北、香港、シンガポール)において、コロナ禍前後に整備が進められている都市近郊の回遊トレイルの散策インフラ整備、サイン計画、誘客イベントの開催等の計画技術に着目し、これらを比較分析し、散策路事業の近年の動向を把握した。 さらに、学術研究の社会実装として、ドイツのクアオルト地域の理念の導入、および気候性地形療法に基づくトレーニングの手法に基づく健康まちづくりやウェルネスツーリズムのプログラムの提供に取り組む山形市上山市において、2013年に作成されたクアオルト構想の第二期の策定に際し、活動と人、健康・観光プログラムや空間整備など、周辺環境での整備とそのストックの状況について整理し、これに基づく計画の策定に取り組んだ。
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