研究課題/領域番号 |
18K11846
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研究機関 | 桜美林大学 |
研究代表者 |
金子 淳 桜美林大学, リベラルアーツ学群, 准教授 (00452178)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 博物館 / コンテンツツーリズム / 展示 / 観光 / 歴史像 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、コンテンツツーリズムにおける「ストーリーの没入欲求」に焦点を当て、主に歴史系博物館展示の具体的な展開事例をもとに、来場者の歴史像の構築に寄与できているかどうかを検証することを目指すものであるが、3年次となる2020年度においては、文献調査とともに理論的考察を行った。 2019年度においては「ストーリー」に注目して主に理論的な考察を行い、とりわけ「物語性」に焦点を当てた調査に力を入れた。コンテンツツーリズムにおいては、参照されるべき「物語」の存在が不可欠であり、その「物語」がどのように「生産」され、現地において「演出」され、そして「消費」されているのかを確認する作業が必要だからである。 この成果を踏まえたうえで、2020年度においては、「ストーリー」を提示する側ではなく、受け取る側に軸足を置き、観覧者の「解釈」に注目して調査を進めた。成果については「博物館における意図と解釈」(『桜美林大学研究紀要 社会科学研究』1、2021年)としてまとめたが、ここで事例として注目したのは、2019年に愛知県で開催された「あいちトリエンナーレ2019」内の企画展「表現の不自由展・その後」における展示妨害活動である。これは、「天皇制」や「戦争」といった論争的な主題について、展示する側の意図と観覧する側の政治的な信念や解釈の相違によって、過剰なまでの妨害行動が巻き起こり、展示中止にまで至った事件であるが、おもにこれを事例にして、展示する側の意図と、観覧する側の解釈のズレについて検討した。 そして、美学や分析哲学などの議論を参照しつつ、展示の意図と解釈の問題について考察を進めた。その結果、展示の解釈にあたっては、作者や展示する側の意図をまったく排除することはできないため、必ずしも観覧者側の解釈の自由を無条件に最大化させるべきではないという知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は、これまでと同様に、①文献調査、②現地調査、③収集したデータに基づく分析という3つの柱として予定していたが、②の現地調査がコロナ禍により不可能となったため、やむなく断念せざるを得なくなった。その代わりに、①の文献調査を拡充するとともに、前述の「あいちトリエンナーレ2020」内の企画展「表現の不自由展・その後」に関する資料を収集した。いわゆる「電凸」や脅迫などの妨害活動によって中止に至った経緯についてはさまざまな論文において考察され、またそれらを総括するような書籍も出版された。こうした資料を幅広く収集しつつ、それらを「展示の意図と解釈」という文脈において捉え直す作業を行った。 また③は、①②によって得られた情報をもとにして分析し、論文にまとめるという作業である。特に「展示の意図と解釈」という課題については、まず、構成主義、社会構成主義に関する研究動向に関するレビューを幅広く行うとともに、そのなかでも博物館教育や博物館展示の分野における構成主義に関する議論を収集し、それらを批判的に検討した。一方、構成主義の文脈とは別に、博物館における観覧者側の受容という点において、ミュージアム・スタディーズにおける来館者研究やマス・コミュニケーション研究、メディア論を参照しつつ、さらには、芸術哲学、分析美学など周辺領域の研究動向にも踏み込んで理論的考察を行い、それを具体的な事例に当てはめながら検証を行った。 これらの作業によって、コロナ禍においてフィールドワークができなかった不足分を上回る成果が上げられたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続き資料収集を進めるとともに、コロナ禍によって中断していたフィールドワークを再開する予定である。しかし、2021年度に入ってからも緊急事態宣言が発令されるなど、新型コロナウィルスによる影響は避けがたく、予定通り実施できるかについては未定である。 また、コロナ禍によるインバウンドの極端な減少も、フィールドワークの実施に大きな影響を与えている。博物館展示を媒介とした各種コンテンツが地域社会にもたらした影響を探りたいと考えているが、インバウンドがほぼ皆無で、国内移動も抑制されている中では、年度当初の研究計画通りに進まない可能性もある。いずれにしても、感染状況の推移と地域社会の事情を見据えた上で、調査対象や調査時期についても、状況に応じてその都度、検討を重ねていくしかない。 調査対象としては、大河ドラマや時代劇など、歴史像の表象と関係の深い題材を想定している。また、2020年度に事例として取り上げ考察を進めた戦争に関するコンテンツツーリズムにも対象を拡大していきたいと考えているが、状況によって路線変更することも十分に考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大の影響により研究計画の変更を余儀なくされたため些少の残額が生じたが誤差の範囲内である。
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