本研究では、主に歴史系博物館の展示を対象に、コンテンツツーリズムが来場者の歴史像の構築に寄与できているかどうかを検証することを目的としている。最終年次となる2022年度においては、これまでの研究を総括する意味で、コンテンツツーリズムの中核をなすと考えられるポピュラーカルチャーに注目した。博物館がポピュラーカルチャーとどのように結びつき、今後どのような関係を持ちうるのかということについて、現地調査及び理論的考察をおこなった。 その検討の過程で重視したのは、オーセンティシティという概念である。一般に博物館は、学術的な方法論によって現時点でもっとも確実と思われる学術的成果を公表する場であるため、客観的で学術的なオーセンティシティを求めるとされる。ところが、博物館におけるポピュラーカルチャーの展示を調査する中で確認されたのは、そのオーセンティシティが、必ずしも客観的な史実を重視するというだけではなく、関係する主体に応じてその概念に揺らぎが生じているということであった。すなわち、必ずしも本物か偽物か、あるいは史実か創作かといった単純な二元論に還元することはできず、発信者が何を意図し、受容者が何を求めるかによって、多様なオーセンティシティ概念が想定されうるということである。 このような観点から、博物館におけるポピュラーカルチャーの展示について検討したところ、実際に博物館がポピュラーカルチャーとの関わりにおいて多様なオーセンティシティ概念を採用し、状況に応じて使い分けられていることが判明した。また、博物館とポピュラーカルチャーはシンプルに結びつくような性質のものではなく、さまざまな文化的な背景や政治・経済的な状況などと絡みながら、多様で複雑な展開を遂げているだけに、さらに事例を積み重ねていくことでそのオーセンティシティの相貌について具体的に描き出していく必要性が示唆された。
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