研究課題/領域番号 |
18K11850
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
木下 征彦 日本大学, 商学部, 准教授 (10440025)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 世界遺産 / 地域社会 / 観光 / まなざし / 再帰性 |
研究実績の概要 |
本年度は、主として交付申請書の「研究の対象と方法」に記載した①~③中、当初計画の通り①と②に取り組んだ。一部先送りした点も含め、詳細は以下のとおりである。 ①「(a)富岡市民の〈世界遺産のまち・富岡〉へのまなざし」と「(b)世界遺産前後の富岡市民の意識と行動の変容・進展」を分析するため、富岡市における世界遺産登録の影響に関する継続的な実態調査として、「世界遺産・富岡製糸場とまちづくりに関する市民意識調査」を企画した。行政や地域住民の協力を得ながら、成人市民2000名に対して富岡製糸場の世界遺産登録が地域社会にもたらした影響と今後のまちづくりへの活用の可能性について問う調査票の設計を行った。しかしながら、災害等の事情から本年度中の調査実施を延期せざるを得なくなった。したがって、本年度の主な実績としては、(3) 地域社会に散在する既存データの収集・整理によって得られたデータと知見に限られる。行政、商工会、商店街やまちづくり団体等の関係者からヒアリングを重ね、世界遺産登録後の各組織・団体の事業活動の内容・実績に関する資料の収集・整理を継続している。 ② 世界遺産登録の影響を測定するための基本的な視点と方法の検討 「(1) 世界遺産登録がもたらす地域社会への影響に関する先行事例」として「石見銀山遺跡とその文化的景観」と島根県太田市大森町の事例を中心に地域産業と地域文化の見地からの関連文献および資料の収集・整理を行った。ただし、令和2年3月に計画していた太田市役所、商工会、大森町自治会協議会への聞き取りも社会的事情から断念を余儀なくされた。一方で、 「(2) 関連する文献」の収集・整理については、「再帰性(Reflexivity)」と「まなざし(Gaze)」の両概念に関連する必要文献の収集と整理が順調に進んだ。現在、両概念の観光まちづくり論への適用可能性を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、研究期間において(1)観光客調査(2回)と(2)市民意識調査(1回)の実施を予定しているほか、2年間で(3)既存データの収集・整理、フィールドワークと聞き取り調査を実施する計画である。 令和元年度は当初、①(2)「〈世界遺産のまち・富岡〉へのまなざしに関する調査」を令和元年11月に実施する予定であった。しかしながら、同年10月に発生した台風19号による土砂災害をめぐる市内の情勢を鑑み、調査の実施時期を令和2年3月に延期した。しかしながら、今度は標本抽出準備中に新型コロナウィルスが発生したことで再度の延期を余儀なくされたため、研究計画を修正して次年度に本調査を実施することとした。一方、①(3)既存データ収集・整理については、行政ほか関係団体等の協力を得て、順調にデータの収集・整理が進んでいる。前年度に収集したデータも含め、その一部は令和元年9月の地域活性学会大会において報告した。さらに調査を進める過程で新たな関係者の知遇を得ることもでき、当初想定していたものよりも幅広いデータの収集を見込んでいる。 令和元年度中に実施予定であった②(1)世界遺産登録の先行事例での聞き取り調査については、令和2年3月に島根県太田市と岩手県平泉町を訪問する計画だったが、やはり新型コロナウィルスの影響で断念せざるを得なかった。令和2年度のなるべく早期に実現する予定だが、社会的な状況によって実現が困難な場合は、代替手段を検討する。一方、②(2)理論的研究の面では、関連する理論と概念についての文献の収集・整理は順調に進行しており、成果を蓄積しつつある。 こうした状況から、研究の進捗状況としては「やや遅れている」と判断している。通常であれば令和2年度中にキャッチアップすることが容易だが、新型コロナウィルスをめぐる社会状況によっては、研究計画・方法の修正等を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度であり、基本的には前年度の遅れをフォローしつつ、当初計画に従って研究活動を推進する。これまでの文献研究において検討した「再帰性(Reflexivity)」と「まなざし(Gaze)」の両概念をもとに、世界遺産登録が及ぼす地域社会への「影響」を捉える理論仮説を準備する。同時に、これまで収集した既存データを指標として「影響」を測定する分析枠組みおよび作業仮説を構築する。 また、令和2年度中に予定されている群馬県立世界遺産センターのオープンおよび富岡製糸場西置繭所のリニューアルオープン後に、当初計画していた観光客を対象とする調査票調査を実施する。ただし、新型コロナウィルスの影響によって観光をめぐる先行きが不透明な状況が全国的に広がっており、当初計画の通りに進められない可能性も少なくない。その場合は、Webモニター調査やヒアリング調査、ビックデータの利用など、研究期間と研究予算の範囲内において調査方法を見直すことも視野に入れて、研究活動を継続する。 さらに、前述の理由で前年度までに実現できなかった調査項目のフォローを行う。とりわけ、令和元年度に実施予定であった富岡市における市民意識調査については、標本抽出に関する方法の見直しも含め、実現可能な調査方法で先行研究と比較分析が可能な量的データの収集を行う。 これらの成果および進捗状況については、学会報告や学術論文の形で成果を公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
自然災害等の理由で、令和2年度に計画していたサンプル数2000規模の郵送調査実施の延期を余儀なくされた。そのため、予め計上していた調査票一式の印刷費、郵送費、返送費、データ入力等にかかるアルバイト謝金等の支出がなくなり、次年度使用額が発生した。ただし、調査自体は次年度に改めて実施するため、予算は当初計画の通り、適切に支出する予定である。
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